福井県福井市久喜津町の豊かな自然の環境のもと、
子どもたちの主体性を大切に保育を行う「めぐみこども園」。
「木育」といった活動や本物に触れる体験を通じて、
子どもが自ら感じたことを支え、成長の基盤づくりをサポートしています。
今回は、これまでにもカシカンについて様々な意見をいただいてきた、
めぐみこども園の副理事長である中戸さんに、
カシカンの利用体験や地域とのコミュニケーションについて、
さまざまなお話を伺いました。
めぐみこども園の特色
鵜飼
本日はお時間をとっていただきありがとうございます。
それでは最初に、
めぐみこども園のホームページを改めて拝見したのですが、
木育という取り組みがとても面白いですね。
中戸
はい。木育については7、8年前から取り組んでいまして、
東京おもちゃ美術館とコラボレーションして
専門の木育ルームを導入しました。
当園のコンセプトとして、
「ホンモノにふれる」を大切にしています。
木だけでなく文化やデザインなど様々な分野でも同様です。
鵜飼
いいコンセプトですね。
中戸
これはかなり意識していて、
図書館でも単に電子書籍を導入するのではなく、
実際に紙の本に触れることを大切にしていますね。
一方で、検索の便利さや借りやすさにはICTをうまく活用し、
デジタルだけ、あるいはアナログだけではなく、
その相互作用を大切にしています。
鵜飼
なるほど。
中戸
園の図書館の規模自体はそれほど大きくないのですが、
毎月絵本を増やしており、現在約6,000冊ですね。
鵜飼
素人質問で恐縮なのですが、
こども園の図書として6,000冊というのは、
比較的多い方なのでしょうか?
中戸
一般的な公立図書館が約1万冊程度なので、
絵本だけで6,000冊というのはそれに近い規模になります。
システムは保護者がアプリで予約すると、
こちらのスタッフが本を用意して、
子どもが持ち帰ることができるようになっています。
返却するときは返却ボックスに入れるだけで完結しますね。
鵜飼
家から予約できて、
簡単に持ち帰ることができるのは良いですね。
中戸
土曜日や閉園時間でも図書館を利用できる仕組みもあります。
登録者にはセキュリティカードを配布していて、
QRコードを使った貸出処理をして持ち帰れます。
最初は保護者や外部に向けて、
貸出のシステムを作ろうと考えていたのですが、
実際には職員も図書館をよく利用していますね。
鵜飼
保護者や外部に向けてのシステムということは、
それは園に通っていない方でも
図書館が利用可能ということですか?
中戸
はい、入園していない方の利用も可能です。
現状でも、子育て支援のひろばにこられた方は
特に多く利用されています。
最終的には地域の方にも広く開放して、
地域の拠点として園が役割を持つことを目指していますね。
その意味でも図書館は重要な位置づけとなっています。
また、2024年に庭園を、
新しく「ASOBIO(アソビオ)」として、
自然豊かな環境にリニューアルし、一般公開を始めました。
鵜飼
園庭のホームページも見ました。
すごい魅力的ですよね。
中戸
ありがとうございます。
地域の方がもっと気軽に訪れる仕組みづくりを進めていて、
ゆっくり出来るスペースや、
小規模ながらカフェテリア風の設備も設けています。
飲み物の提供も行い、Wi-Fi環境も整えているので、
今後地域交流を促進していければ理想的ですね。
鵜飼
子ども園と地域コミュニティの交流というのは、
一般的によくあるものなのでしょうか?
中戸
私たちの園は意図的に地域との接点を作っていますので、
一般的な園よりも接点が多いと思いますね。
また、入園前の方向けのイベントを週1回開催し、
園庭開放時にも月1回程度ミニイベントを催しています。
多くの世代が集う場づくりに向けて
チャレンジしたいと考えています。
鵜飼
なるほど。
多世代の交流は社会的にも求められている一方で、
色々と難しい部分もありますよね。
中戸
そうですね。セキュリティや運営面の課題もあります。
今、世間的に遊ぶ場所自体はそれなりに充実していますから、
新しい「遊ぶ場」よりも、
「居心地の良いくつろげる場」を作ることが大切かなと思っています。
外部サービスや店舗と連携して図書館を充実
中戸
そもそも、カシカンさんのアプリを導入した経緯ですが、
園の中に図書館を作ることになった際に、
貸し借りや管理をどうするかが大きな課題になりました。
大量の絵本があると手作業での管理では到底追いつかず、
子どもや保護者が借りやすい仕組みが欲しかったんですよね。
鵜飼
なるほど。
中戸
そういう理想的なアプリを色々調べていたのですが、
一般的な図書館向けソフトしか見当たらず、
現実的ではありませんでした。
その中で出会ったのがカシカンさんです。
これはもしかしたら理想に近づけられるかなと思い、
問い合わせフォームからコンタクトして、
使い方を相談しました。
最初は半信半疑でしたけど、
やり取りの中で非常に柔軟に対応していただいて。
相当細かい仕様について何回も話し合い、
アプリの形を整えました。
鵜飼
そうでしたか。
今回のインタビューに際して、
カシカンを開発している代表から、
中戸さんより頻繁にサービスのフィードバックや
機能要望をいただいたと伺っていましたが、
そうした経緯の中で、
カシカンとの関わりが生まれたのですね。
中戸
また、絵本専門店のクレヨンハウスさんに
絵本の選定やジャンル分けをお願いしました。
ハッシュタグもつけて絵本を分類したデータでいただき、
それをこちらで一括取り込みしました。
鵜飼
クレヨンハウスさんとは最初から関係があったわけではなく、
図書館を作る流れの中でお願いしたのですか?
中戸
そうです。最初にアプリの方向性を決めてから、
絵本の選定とジャンル分けをどこへ頼むかを
考えていたんです。
専門家にお願いしたいなと思い、
絵本関係で有名なクレヨンハウスさんに
ダメ元で電話で相談をしてみました。
すると快く引き受けてくださいました。
鵜飼
その後もクレヨンハウスさんとは
定期的なコミュニケーションが続いているのでしょうか?
中戸
そうですね。毎月おすすめリストから絵本を選定し、
ジャンル分けされたものをデータ化していただいて、
それを一括でカシカンに取り込んでいます。
こうした形で季節ごとに絵本が増えていきます。
これは非常に良い仕組みだと感じています。
本や物と触れるためのデジタルの活用
鵜飼
先ほど「借りやすさ」についても話されていましたが、
実際に保護者の方々はスムーズに使われていますか?
中戸
こちらで見ている限りでは、
特にストレスを感じている様子はないですね。
自宅でアプリから予約すると、
子どもが自ら本を受け取るので、
快適にご利用いただけていると思います。
図書館で迷って時間をかけて選ぶのではなく、
自宅でさっと選んで、あとは子どもが持って帰ってくる。
こんな便利な仕組みはないのではないかと思います。
鵜飼
確かに。私たちが子どもの頃には考えられませんでした。
中戸
アナログの価値を大切にすると言いながらも、
現実的に、業務でデジタルを排除するのは
難しいと実感しています。
今はむしろ合理的にデジタルを取り入れて、
アナログとうまく共存させるのが良いと思っています。
鵜飼
デジタルに任せることで、
アナログの本の良さが一層引き立っているように感じますね。
中戸
まさにそうですね。本を借りるのが苦手だったり、
面倒だと感じている方がいるなら、
その部分をデジタルで解決してあげることで、
本との距離が縮まります。
一方で、ページをめくる音や紙の質感といった
本物の良さは絶対に残すべきですよね。
鵜飼
とてもよくわかります。
中戸
これからもアナログとデジタルを上手に融合する園は
ますます増えていくだろうと思っています。
鵜飼
間違いなく今後も増えそうですよね。
ところで、保護者さん同士のコミュニティでは、
情報交換はどのようにされているのでしょうか?
中戸
絵本の情報については結構難しいテーマですよね。
私立図書館などでは本の読み聞かせイベントを開催したり、
「絵本マイスター」といった専門家から
情報を提供する仕組みを取っているところもあります。
また、土日に開放して、
絵本を楽しめるスポットを作っている方もいます。
ただ実際のところ、
「どんな絵本を読ませれば良いかわからない」
という保護者さんはかなり多いですよね。
地域の人々のニーズに応えて地域に根をおろす園
鵜飼
めぐみこども園さんは、
今後の「地域とのコミュニティ拡充」に向けて、
現段階でどのようなことをお考えですか?
中戸
そうですね。
やはり地域の方々が気軽に集える場所を目指したいです。
その一つとして、整備した図書館がさらに地域資源として
しっかり機能するようにしていきたいと思っています。
そのためにもICTを活用した図書館システムを
さらに様々な形で発展させたり、
他のサービスと連動したりするような
工夫をしていきたいと考えています。
例えば将来的には、本の貸し出しだけでなく、
おもちゃなどの貸し出しにも
活用できれば面白いかなと考えています。
鵜飼
それは確かにニーズがありそうですね。
中戸
そうなんですよ。
保護者さんが求めるものは意外に色々あります。
ただ重要なのは、単純に保護者目線だけで考えるのではなく、
「子どもの育ち」を第一という観点から、
保護者にとって何があれば良いかを考えることだと思います。
おもちゃの貸し出しも良いですし、
さらにもう一歩踏み込んで、
意外性のある貸出物があっても面白いかなと思っています。
鵜飼
なるほど、面白い発想ですね。
地域の特性によっても、
貸し出す物やサービスが変わりそうです。
中戸
地域の特性やニーズを掘り下げていくと、
思ってもいなかった貸出物やサービスが出てくる可能性は
十分にあると思いますね。
鵜飼
本日は貴重なご意見をたくさんいただき、
本当にありがとうございました。
中戸
こちらこそ色々とお話をさせていただき、
ありがとうございました。
めぐみこども園の取り組みは、いわゆる「こども園」という枠を超え、その地域ならではの特色を存分に活かし、地域に根ざした居場所としてのさまざまな可能性を広げるものであり、大変興味深くお話を伺いました。「ホンモノにふれる」ためのデジタル活用という考え方は、教育の現場にとどまらず、これからの時代のさまざまな分野においても必要とされるのではないでしょうか。また、新しいことを始める際に、その道のプロと積極的に関わる姿勢からも、多くの学びを得ることができました。