テレワークの普及や転職の一般化により、職場での人間関係の希薄化に悩む人事や管理職は少なくありません。そんな中、関西電力労働組合(以下 関電労組)はイメージ刷新を掲げ、本をシェアする図書館を開始。「カシカン」を運営に導入したことで、運用負担を抑えつつ、5,000人規模の組織で自走する仕組みを形にしました。今回は、ツールを介して無理のない「ゆるい繋がり」と「学びの文化」を育むヒントを探ります。
組合員の幸せを最大化する労組の「攻め」の活動
鵜飼
最初に、関西電力労働組合がどういう形で運用されて、どのような活動をされているのか、改めてお聞かせいただけますでしょうか。
関電労組
私たちは、関西電力株式会社や関西電力送配電株式会社の組合員で構成する労働組合です。「労働組合」と聞いて、どのようなイメージが浮かびますか?
鵜飼
実は名前はもちろん知っているんですけれど、実際の労働組合がどういう形で活動されているかって、正直ちょっとピンとこないところがありまして。
関電労組
たぶん、皆さんイメージされるのは春季生活闘争、いわゆる「春闘」ですね。ベースアップを交渉することや、法令に準拠した安全衛生委員会など、法令を守る会議を会社と行うのが我々の大事な仕事です。それ以外で申しますと、職場内におけるサービス残業や過労などを抑制し、会社に対して是正をしていくことも我々の役割になります。
ただ、そうした過去から大切にしてきた価値観も守りつつ、実は労働組合の活動って、見方によっては「無限大」なんですね。組合員さんやそのご家族の幸せに繋がる活動であれば、すべてが我々の仕事になりうる、という考え方で取り組んでいます。
例えばこのコロナ禍以降、テレワークの普及によって、新入社員が上司や先輩に一度も直接会ったことがないというケースがありました。以前の世の中の方が、仕事や教育がスムーズに進んでいた側面もあり、職場における人の繋がりの希薄化が問題視されていたんです。そこで、組合員さん同士の繋がりを作る部分や、最近の皆さんの「学びたい」という自己啓発の姿勢をサポートする取り組みを始めました。これまでの活動が「守り」だとすれば、一歩踏み出すことをサポートする「攻め」の取り組みです。これまでの基盤からさらに踏み出した、プラスアルファの幸せに資する活動を行っているイメージです。
会社に代わり労働組合が取り組む「ゆるい繋がり」
鵜飼
組合員の皆様は普段の業務では別々の場所で働かれているんですかね。
関電労組
そうですね。同じ建屋や部署で働いてはいるのですが、人数が多いため、同じ本を借りている人が同じ部署のメンバーとは限らず、バラバラです。地域での近所付き合いが減っているのと同様に、職場での繋がりも時代の変化とともにどんどん希薄化してきています。昔の職場には慰安旅行などもありましたが、今ではなかなか難しいですよね。
組合としては繋がりを作る行事を模索するのですが、あまり強制的に人を繋ぎに行くと、逆に参加者が少なくなってしまいます。だからこそ、現代の時代背景を考えると、無理のない「ゆるい繋がり」を意識しつつ、「何かあれば人と繋がれる組合というコミュニティがあるんだ」と認知していただけるようなアプローチが合っているのかなと思っています。
鵜飼
本当に個人的にも興味がある分野だと感じました。それこそ昔はある種「会社は家族だ」みたいな価値観だったじゃないですか。会社で働くことで人生を費やす、という世代があり、そこから時代が変わって今となり、ある種の煩わしさみたいなものがなくなって、ある意味では簡易的に、ある意味では合理的にはなりました。一方でそれを進めすぎて、それこそ人と人との繋がりがなくなる、関係が希薄な働き方になってしまうみたいなところで、今また悩みが新しく増えてきているとは思うんですよね。いかにこう、あまり気負わずに楽しく働ける環境って、皆様どうやって構築しているのかなというのが改めて興味があります。
関電労組
そこは非常に難しいところで、強制すると煩わしがられて敬遠されてしまいます。ですが、全くなくていいかというとそうではなくて、困った時にしっかり相談ができ、仕事を進めやすくするための人間関係って非常に大事なんです。ただ今の時代、会社側としてはパワハラのリスクなどを考慮すると、こうした関係性を積極的に作っていくことが難しくなっています。だからこそ、会社がアプローチしにくい部分を労働組合が役割として果たせたらな、と思っています。これ、なかなか難しい課題ですよね。
鵜飼
いや、難しいですよね、本当に。全国共通の悩みだと思います。
「嫌なら転職」の時代に挑む労組の新アプローチ
鵜飼
組合が図書館を行っているというのは、レアなケースなんですかね。
関電労組
他社さんの状況は分かりませんが、私たちは歴史のある古い会社であり、労働組合自体もどちらかと言えば「硬くて古い」というイメージを持たれがちです。だからこそ、組合がこうした新しい取り組みをしているというギャップが、逆にメンバーに刺さったのだと思います。
ザ・労働組合という従来のイメージを打破していかなければ、今の組合員が何を求めていて、私たちが何をするべきかという本質にたどり着けない。ある種の「リブランディング」に近い挑戦として、この図書館を一つの目玉として位置づけています。
いま、労働組合を取り巻く環境は非常に厳しく、大きな要因がふたつあります。昔は労働条件が過酷で賃金も上がらない時代だったため、労働組合が団結して賃上げや環境整備を求めることで、強い存在感を示すことができました。しかし現在は労働力不足という背景もあり、会社側が職場環境を整え、政府も賃上げを主導しています。もちろん組合としても要求は出しますが、「労働組合いなくても上がるのでは?」と言われかねないほど、社会環境が大きく変化しているのが1つ目です。
ふたつ目は、転職の一般化です。同じ会社に長く勤める人が減り、帰属意識や職場の環境改善に対する関心が薄れています。「嫌だったら転職できる」時代ですので、そもそも労働組合に関心を持ちにくい状況があります。我々もこれまでの活動を盲信するだけでは頼りにされないので、カシカンさんも活用しながら新しい取り組みをどんどん発信し、「組合っていいよね」と思ってもらうことがまずは何より大事だなと思っています。
一方で、組合界隈には昔ながらの団体行動や交渉こそが大事だという考え方も根強くあるので、そのバランスを模索しながらチャレンジを続けている、というところですね。
鵜飼
実際に何かがあったとき、全体で話し合うみたいな形で問題をピックアップされたりするんですかね。
関電労組
そうですね。定期的に「対話週間」や「対話月間」を設けて意見を聴取するほか、不定期に職場の悩みをご相談いただくケースもあります。ただ、普段から労働組合との接点がなかったり、組合を信用していなかったりすると、そもそも相談には来てもらえず、外部の窓口に流れてしまう可能性もあります。だからこそ、普段から組合員との距離を近く保ち、何か接点を持っておく必要があります。今回の図書館のようなプラスアルファの取り組みが、まさにその大切な接点作りに役立っていると感じています。
鵜飼
問題が起きて誰かに相談したいときに組合と関わるという文脈と、それとは別に、図書館みたいな形で情報が得られる場所であったり、自分が気づいていない問題を知れたり役立つ知識が得られる場所としての、ふたつの関わり方があるんですね。
関電労組
私たちの組織は「ユニオンショップ制」を採用しているため、入社すると必ず組合員になります。だからこそ、ただ在籍しているだけでなく、「組合って役に立っているな」と感じてもらえるよう、常にチャレンジを続けなければならないと思っています。
私たちが所属しているのは、本部の下にある地域統括拠点のひとつ、「本店地区本部」です。ここには本店、関連病院、研修センター、工事部門という大きく4つの拠点が含まれており、約5,000人の組合員が所属しています。関西電力労働組合全体の組合員数は約16,000人ですので、そのうちの5,000人がこの本店の建屋に集まっている形です。人数が多い分、多様な価値観や考え方がありますので、それらに応えていくのはなかなか大変なことだと日々感じています。
紙の管理からカシカンへ、組合の図書館が誕生
関電労組
先ほどの攻めの取り組みの流れで申し上げますと、実はこの図書館をやろうとしたのも、まったく同じ考え方からスタートしています。
もともと組合の部屋には色々な本が置かれていたのですが、雑然としており、貸出の管理もされていない状態でした。一方で、組合員からは「自己啓発のために本を買いたいが、専門書は高額だ」「資格取得の参考書やテキストをすべて揃えると費用がかさむ」といったニーズがあり、何かサポートができないかと考えていたのです。本を購入して皆でシェアをし、本への書き込みや付箋を通じた知識の蓄積が生まれれば、さらに学びが深まるのではないかという狙いもありました。
取り組みの第一歩として図書館を始め、ひとつの棚に本を並べたのですが、当初は紙で貸出管理をしていたため、より良い方法がないかと悩んでいました。そのときに出会ったのがカシカンです。そこから取り組みが大きく加速し、周知や認知度も向上し、おかげさまで現在は非常に順調に運用できています。
鵜飼
実際に運営してみて、どういった本が多く借りられるみたいなことってありました?
関電労組
傾向としては、非常に満遍なく借りられています。実は、組合として本を購入するだけでなく、皆さんからリクエストを募って購入するパターンや、「読み終えたので」と寄贈していただくパターンなど、様々なルートで本が集まっています。ある方が旅行関係の本をたくさん寄贈してくださり、新しいコーナーを作ったところ、旅行本を借りていかれる方も多くいらっしゃいました。
鵜飼
おもしろいですね。
関電労組
組合員のおかげで、私たちの世界も広がったと感じています。どうしても私たちだけだと啓発系やビジネススキルに偏りがちですが、それだけでなく、幅広く皆さんの人生を豊かにできるものが集まるようになりました。
また最近では、組合として「ワークルール検定」という資格認定の検定を周知し、「組合の図書館で参考書と問題集をお貸しします」としたところ、思いのほか大きな反響をいただきました。追加で本を買い増しして皆さんにお渡しするほど、良い流れが生まれています。
現在の貸出状況を見ますと、制作関係の本、仕事で使いたいビジネス書、あるいは「ITパスポートの試験を受けたいので教科書を買ってほしい」という要望に応えて購入した本など、非常に幅広く借りられています。そのため、一概にこれが常時どれくらい、とは言いにくいのですが、その時々によってニーズの波がありますね。例えば、電気事業に関係する「核融合による発電方法」や「水素を使ったエネルギー戦略」について学びたいという人が増えた時期には、関連書籍がどっと増えたりします。
鵜飼
いい流れが生まれていますね。例えば新しい本の入荷や、いまこういった本を並べているという、そういった連絡は組織の中のメールなどで行っているんですかね。
関電労組
おっしゃる通りです。また、カシカンのアプリで通知される機能も非常に便利だなと思っております。他にも組合員が見ることができるポータルサイトのようなものがありますので、そこに記事を掲載し、メールで周知する方法もあわせて行っています。
事務局の負担はほぼゼロ。驚きのバーコード登録
鵜飼
今までカシカンサポートへ質問や問い合わせをされたことはありましたか?
関電労組
ありがたいことに、システムがとても使いやすいので、問い合わせる機会がほとんどありませんでした。大変感謝しています。一番最初の導入時に、「私たちは非営利法人なのですが」という相談をした際、適切なプランの案内をしていただきましたね。
鵜飼
登録とかも特に問題なく動いていますか?
関電労組
もう、ISBNコードでのバーコード登録が便利すぎて感動しています。表紙写真が自動で登録されないときは自分たちで撮影して載せていますが、最初の登録も100冊程度でしたので、すぐに終わってしまいました。
現在は、私を含めて4人の管理者で本の登録や運営を行っています。導入後の効果や変化については、まさにこれから見守っていく段階ですが、使っていただいている界隈では「組合が図書館をやってるらしいぞ、しかも簡単に借りられるらしい」と話題になっているようです。こうした声を積み重ねていき、最終的に皆さんの自己啓発や、人生を豊かにすることに繋がれば良いなと思っています。
鵜飼
まだカシカンを知らない、使ったことのない方に特にお勧めしたい機能はありますか。
関電労組
本を選ぶ時に視覚に訴えることができますので、それを選びやすいということ。やっぱり視覚化されるというのは非常にメリットがあるなというのと、誰が借りているかも見られるので、そこはお勧めかなと思います。あとは、事務局の負担がほぼ無くなったという、これが圧倒的便利ですね。
鵜飼
やっぱり紙で管理されていた時は結構大変でしたか?
関電労組
そうですね、紙を書くために事務所に来なきゃ駄目ですし、新しい本を追加した時に差し込みが大変だという話もありました。人気の本はどんどん予約がいっぱいになっていって、次の紙にまでいってしまうこともありました。それに加えて、カシカンだとこのコメント機能とか備考欄があるじゃないですか。それがめちゃくちゃ便利です。
現状では我々スタッフがいなくても、組合員がふらっと来て自由に借りていくこともできます。出先の拠点の人であれば、予約をして連絡をいただいて、郵便で送っていますね。
鵜飼
なるほど。連絡は必要だけれど、直接会う必要はないという形ですかね。
関電労組
そうですね。私たちの図書館がカシカンを通して「自走」しているような、そんなイメージかなと思っています。
ちなみに私たちの図書館に「ウィズダム」という名前を付けていまして。知識・知恵の「wisdom」と、一緒にという「with」をかけて、知識をみんなで共有するというコンセプトもあります。愛着を持っていただけたら嬉しいなと思いつつも、実際は「カシカン」という名前の方がすごい浸透しています。
コメント機能で育む交流と、広がるシェアの未来
鵜飼
カシカンは本の利用が多いんですけれども、それ以外の貸し出し物で使われている方も結構多くて、現場の工具であったり、保育園だとおもちゃであったり。何か本以外でシェアできるみたいな部分って、検討されたりしたことってありました?
関電労組
実は最近それをお伺いしまして、「そういう発想があるのか」と驚きました。非常に良い使い方だなと思っています。
鵜飼
パソコンや、あと社用車とかもありますね。設定次第では部屋とかも貸し出ししたりできるんですよ。
関電労組
キャンプ道具とか、大きいスーツケースとかもいけそうですね。
鵜飼
いいですね。どこかの会社のサークルとかでも利用されていますね。登山部みたいな。結構高額な道具とか多いので、そういう場合でもお勧めです。
関電労組
確かに、滅多に使わないような高額なものはシェアにぴったりですね。
鵜飼
そうなんです。持っていてもずっと保管しているだけのものとかも多いですからね。
関電労組
それは面白いですね。ちょっとカシカンを使った企画を考えてみたいと思います。
鵜飼
ある種、カシカン自体の小さい動きとしては物をシェアするであったりするんですけれども、すごく大きなビジョンとして、やはり物の共有をしたらもっと便利だというところから始まって、ある種のコミュニティが生まれる、という部分をカシカンの中でも考えつつやっていますので、ある種の問題意識みたいなのは同じなのかなと思いました。
関電労組
まったく同じ思いですね、我々も。共に考えていかなければいけないテーマです。
鵜飼
その上でひとつの本をシェアするというところに、付加価値がつき、意味合いが発生するみたいなことを、改めて興味深く教えていただきました。例えば、付箋をつけたり、メモ書きした検定の本をシェアするっていう感覚って、あんまりまだ一般的じゃないと思うんです。面白いコミュニティが生まれそうですね。
関電労組
人と人との繋がりとか、組合員同士の繋がりが生まれることは非常に嬉しいですし、本以上の付加価値もあるなと思っています。例えば、寄付をいただく時にその方の思いを本の最後に書いていただいたり、棚を見て「この本、付箋が増えているな」と気づかされたり、色々な発見があって面白いですね。カシカンだと、備考欄やコメント機能を使って「おすすめです」と書けたり、「この本はどこどこ部署の誰々さんからの寄贈です」と共有できたりするので、それ自体が組合員さん同士のコミュニケーションになっています。
鵜飼
ありがとうございました。色々教えていただいて、こちらも本当に色々勉強になりました。
今回のインタビューでは、多くの会社が取り組んでいる「いまの職場内の人間関係づくり」を、ツールを介してゆるく自然に担保した事例を教えていただきました。紙管理の手間から解放され、システムが自走しているからこそ、担当者も組合員も負担なく続けられる好循環が生まれています。「自社のエンゲージメントや帰属意識を高めたい」「メンバーの自己啓発を無理なくサポートしたい」と悩む多くの職場に、カシカンを活用したコミュニティ運営をぜひ参考にしていただきたいです。



