はじめに
文部科学省と経済産業省は6月22日、「産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ」の第1回会合を開いた。会合では、産業競争力と研究力を両立させる新たな大学群の形成に向けて、選定要件、支援措置、評価制度、制度環境整備などをめぐる議論が行われた。本ワーキンググループは、文部科学省と経済産業省、それぞれの審議会の下に設置された合同の会合で、会議の模様はYouTubeでもライブ配信された。事務局は、政府の第7期科学技術・イノベーション基本計画や日本成長戦略の議論、さらに昨年からの両省共同研究会の成果を踏まえ、年内を目途に具体的な制度の方向性をまとめたい考えを示した(産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回))。
「世界で競い成長する大学経営」からの流れ
冒頭、文科省科学技術・学術政策局の西條局長は、第7期科学技術・イノベーション基本計画で掲げられた「研究システムの刷新」と「投資の大胆な拡大」に言及しつつ、2030年度末までに「教員の研究時間割合50%以上」の研究大学を20大学以上にする目標を紹介した。その実現に向けては、国際卓越研究大学やJ-PEAKSに加え、新たな施策を総動員する必要があると説明した(産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回))。
また、文科省と経産省が昨年から進めてきた「世界で競い成長する大学経営のあり方に関する研究会」で、研究大学群の形成や必要な制度環境について議論してきたことも説明された。経産省の畠山局長は、大学と産業界が手を取り合い、研究力と産業競争力を同時に高める必要性を強調し、「両審議会の下にこういうワーキンググループがつくられるのは画期的だ」と述べた(産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回))。
17戦略分野を軸に、10~15年の中長期支援を想定
事務局は資料で、本ワーキンググループの論点として、主に以下を示した。
- 選定要件
- 支援措置
- 評価制度
- 選定方法
- 制度環境整備
支援の方向性としては、17の戦略分野に沿った「分野単位」の支援と、大学全体の研究基盤や経営改革を対象とする「大学単位」の支援を組み合わせる案が提示された。支援期間は、自走化に十分な中長期の枠組みとして、10年や15年程度が必要ではないかとの考え方も示された。ただし、支援規模や対象の絞り込みなど、制度の詳細は今後の議論に委ねられている(産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回))。
求める要件の総論としては、次の4点が整理された。
- 産業競争力強化へのビジョン
- ガバナンス・経営力
- 研究力・人材
- 経済圏への深い貢献
このうちガバナンスでは、権限と責任の明確化、専門人材の活用、学内資源の再配分、部局横断の改革などが重要論点として並ぶ。評価については、3年を目安とするステージゲート、書面評価やヒアリング、アドバイザリーボードを踏まえた継続可否の判断も例示された(産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回))。
研究大学に求めるのは「大学単位」だけではない
委員からは、制度設計の前提をめぐって多様な意見が出た。
江戸川委員は、大学群を支援する際に「どういう組織体、ビークルに資金的なサポートをするのか」を明確にする必要があると指摘。個々の大学経営と大学群全体の経営をどう整理するか、そして産業界の評価をどう制度に織り込むかが重要だと述べた(産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回))。
小川委員は、経団連の「科学技術立国戦略」を紹介しつつ、全ての大学を一律に支援するのではなく、「この分野ならこの大学」と国内外に認知されるようなビジブルな得意領域に重点配分すべきだと提起した。また、支援が終われば関係も切れるような短期的連携では意味がなく、政府としても長期的な産業政策や地域政策の中で位置づける必要があると訴えた(産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回))。
田中委員は、国際的な研究ネットワークに入る「グローバルインターフェース」が鍵だと述べ、海外からの研究者や学生の受け入れ・送り出しを含む人材交流の重要性を強調した。支援規模については、国際卓越研究大学とJ-PEAKSの中間にあたる「70億円から100億円程度」、支援期間は15年程度が必要ではないかとの見方を示した(産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回))。
ガバナンス改革と人材流動化をどう進めるか
後半の議論では、ガバナンスと研究人材の確保が焦点となった。
田中委員は、産学連携では大学トップが自ら動く必要があるとしたうえで、理事長と学長を分けた場合には両者の連携が不可欠だと指摘。権限と責任を明確にするだけではなく、予算配分の意思決定が実際に機能する体制が必要だと述べた(産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回))。
小川委員は、研究力強化には研究者のバックグラウンドの多様性が不可欠だとして、国内外、産学間での人材流動を加速すべきだと提起した。研究者の評価軸に、産学連携やスタートアップ、標準化、他流試合などを組み込むべきだとし、報酬・処遇の格差に対する国の支援も必要だと述べた(産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回))。
久世委員は、大学と企業が研究段階から社会実装までを一体で推進する風土づくりを求めた。人材育成については、文科省の産業・科学革新人材事業(INSIGHT)などの知見を活用できるとし、産業界・大学・国立研究開発法人が一体となって人材戦略を考えるべきだと訴えた(産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回))。
益委員は、産業競争力の源泉は人材にあるとして、博士人材、マネジメント人材、スタートアップ人材、将来のCTO人材の育成を評価の中心に加えるべきだと指摘。さらに、学内資源の再配分や組織再編を、実際にどこまで実行できたかを重視すべきだと述べた(産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回))。
産業界だけでなく、スタートアップや国研も視野に
議論では、大学と大企業の連携だけでなく、国立研究開発法人やスタートアップを含むエコシステムの構築も重要視された。
波多野委員は、大学の知の創造と価値化は国研を含む産官学で進めるべきだとしたうえで、米国NSFの「地域イノベーション・エンジン」に触れつつ、産学連携によって生まれる資金・人材・知を次の研究力の原資として循環させる必要があると述べた(産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回))。
江戸川委員も、核融合、宇宙、量子、防衛、国産AIといった分野では、大学だけでなくスタートアップや非営利団体が研究開発の中核を担うケースがあると指摘。企業だけでなくスタートアップの位置づけも制度設計上、視野に入れるべきだと述べた(産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回))。
「大学システムの改革」に踏み込めるか
上山内閣府参与は、この枠組みの意義として、国際卓越研究大学とJ-PEAKSでは拾いきれなかった高い潜在力を持つ大学群を取り上げる可能性と、川下の産業政策から川上の大学のあり方を見直す視点を挙げた。
一方で、支援を研究開発に限ると大学は十分には動けないとして、基盤的経費や制度改正にも踏み込むべきだと主張。国立大学法人法や会計基準、設置基準など、大学のシステム改革にまで議論を広げる必要性を訴えた(産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回))。
事務局「成果連動型の支援も検討」
議論を受けて大野主査は、今回の制度は「研究力と産業競争力」の掛け算で大学群を形成する構想だと整理。その実現には、成果連動型の支援が極めて重要になると述べた。一定の成果を上げた大学群には、追加支援が行える仕組みが望ましいとの認識を示した(産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回))。
経産省イノベーション・環境局の菊川局長は閉会挨拶で、研究力と産業競争力の両立に向けた議論は難題だが、世界の大学の改革事例も参考にしながら「世界で競う」目線を忘れず進めたいと述べた。また、研究開発投資の赤字や頭脳流出への危機感を示し、大学だけでなく国研や産業界を含めた制度改革が必要だと強調した(産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回))。
次回以降、年内をめどに具体化へ
事務局によると、次回は7月後半を軸に調整中で、海外大学や産業界からのヒアリングも想定。その後、9月以降に支援の枠組みや評価制度の検討を進め、年内をめどに取りまとめる予定だ(産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回))。
今回の会合では、研究力の強化を単なる研究費の配分ではなく、大学経営、産業連携、人材流動化、制度改革まで含めて捉える必要性が浮き彫りになった。新たな大学群をどう設計するかは、今後の日本の研究力と産業競争力の行方を左右する論点となりそうだ。
・参考資料:[産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回) 議事録](https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu31/001/gijiroku/1422208_00012.htm)

