保育DXとは
保育DXとは、保育現場のICT化や給付・監査手続きのオンライン化、保活に関する情報検索・見学予約などのデジタル化を進める取り組みです。保育現場では、保育計画や記録、保護者との連絡、登降園管理などにICTが導入されています。一方で、手書きや紙による業務、電話・郵送・窓口での手続きも残っており、保育施設と自治体の双方に事務負担が生じています。こども家庭庁の資料では、東京都内の保育事業者を対象とした令和2年度の調査結果として、保育士・保育教諭の事務系業務が月平均63時間、業務時間全体の33%を占めると紹介されています。(保育DXの推進による業務改善-p.1)保護者の保活でも、施設情報の収集、見学予約、入所申請、就労証明書の準備などに負担があります。
本記事では、こども家庭庁の資料をもとに、保育DXで何が変わるのか、給付・監査と保活のオンライン化、ICT導入に関する補助制度を解説します。
※本記事には、令和8年度からの「予定」や資料作成時点の利用予定数が含まれます。実際の稼働日、対象地域、補助金の申請条件は、自治体やこども家庭庁の最新案内をご確認ください。
保育DXが進められる背景
保育施設と自治体では、次のような課題が指摘されています。
- 手書きや紙による業務が残っている
- 給付・監査に関する書類作成の量が多い
- 自治体ごとに書類の様式が異なる
- 紙書類の郵送、窓口提出、保管に手間がかかる
- 同じ情報を複数の書類やシステムに入力している
- 自治体側でも書類管理やシステムへの再入力が発生している
- 審査や差し戻し、再提出に関するやり取りが煩雑になっている
保護者の保活でも、自治体のWebサイト、施設のWebサイト、パンフレットなど複数の情報源を確認しなければならない場合があります。施設見学の予約方法も、電話、訪問、メール、Webフォームなど施設ごとに異なります。入所申請書類を手書きで作成することや、就労証明書の準備も負担となっています。
こども家庭庁の資料で紹介されている保護者アンケートでは、696人のうち、次のような回答がありました。(3.(4) 保育DXの推進による業務改善-p.2)
| 保活で大変だったこと | 該当者 |
| 入所相談のために役所を訪問した | 341人 |
| 施設見学の予約手段が電話・訪問などアナログだった | 423人 |
| 入所申請書類の手書きや書類の多さが大変だった | 403人 |
保育DXは、こうした業務や手続きの標準化・簡素化を進め、効率化できた時間を保育の質の確保・向上につなげることを目的としています。(3.(4) 保育DXの推進による業務改善-p.2)
保育DXの主な4つの取り組み
本記事では、こども家庭庁の資料に示された施策を、次の4つに整理します。
- 保育所等へのICT導入
- 給付・監査をオンライン化する基盤の整備
- 保活に関する情報連携基盤の整備
- 保育ICTラボによる導入支援と先進事例の横展開
それぞれ対象者と目的が異なるため、分けて理解することが重要です。
保育所等へのICT導入で何が変わるのか
保育現場で導入が推進されている基本4機能は、次のとおりです。(3.(4) 保育DXの推進による業務改善-p.1)
- 保育に関する計画・記録
- 保護者との連絡
- こどもの登降園管理などの業務
- 実費徴収などのキャッシュレス決済
例えば、保育計画や記録の作成、保護者への連絡、登降園情報の管理、実費徴収の決済などをICTシステム上で行うことで、紙や手作業による負担の軽減が期待されています。
また、こどもの安全対策に役立つ設備として、資料では次の機器も挙げられています。(3.(4) 保育DXの推進による業務改善-p.1)
- 午睡センサー
- AI見守りカメラ
これらは保育士の業務を置き換えるものではなく、安全対策を補助する設備として位置付けられています。なお、午睡センサーやAI見守りカメラの導入推進と、後述する基本4機能の補助制度は、必ずしも同じ対象範囲ではありません。補助対象になるかどうかは、自治体の公募要領などで確認が必要です。
ICT導入率は99%。次の課題は活用範囲の拡大
保育所等におけるICT導入率は、令和6年度実績で99.0%でした。資料では、令和7年度にICT導入率100%を目標としています。(3.(4) 保育DXの推進による業務改善-p.2)
一方、基本4機能のすべてを導入している割合については、令和8年度に20%以上という目標が掲げられています。(3.(4) 保育DXの推進による業務改善-p.2)
今後は、単にICTを導入しているかだけでなく、計画・記録、保護者連絡、登降園管理、キャッシュレス決済など、複数の業務で活用できているかが課題になります。
給付・監査をオンライン化する基盤
保育業務施設管理プラットフォームとは
保育業務施設管理プラットフォームは、保育施設等と自治体の間で、給付・監査などの手続きをオンラインで行うために国が整備する全国的な基盤です。(保育業務施設管理プラットフォーム-p.6)この基盤が目指すのは、保育業務における「ワンスオンリー」の実現です。ワンスオンリーとは、一度入力した施設情報や給付情報などを他の手続きでも活用し、同じ内容を何度も入力しなくて済むようにする考え方です。(保育業務施設管理プラットフォーム-p.6)
現在想定されている課題
従来の給付・監査業務では、次のような負担が発生していました。(保育業務施設管理プラットフォーム-p.6)
- 申請書類や報告書を紙で作成する
- 書類を郵送または窓口に提出する
- 同じ施設情報や請求情報を複数の書類に記入する
- 記載ミスや様式不備による差し戻しが発生する
- 紙書類を保管するスペースや管理コストがかかる
- メールや電話で差し戻し、再提出、確認を行う
導入で期待されること
保育業務施設管理プラットフォームでは、次のような効率化が想定されています。(保育業務施設管理プラットフォーム-p.6)
- 一度入力した情報をシステム間で連携する
- 給付申請や審査の進捗状況を確認しやすくする
- 請求情報をシステム上で管理する
- 請求書や帳票を作成しやすくする
- 監査書類の提出・確認・通知をオンライン化する
- 差し戻しや再提出、リマインドをシステム上で管理する
- 給付側で入力した情報を監査業務でも活用する
- 紙の印刷、郵送、窓口提出、保管を減らす
保育施設だけでなく、市区町村や都道府県の給付・監査担当者の負担軽減も目的とされています。(保育業務施設管理プラットフォーム-p.6)
令和8年度の初期機能
資料では、令和8年度から本格稼働する基盤の初期機能として、次の内容が示されています。(令和8年度予算案9億円(-億円)-p.11)
- 給付請求等の入力
- 加算認定申請
- 給付金の自動計算・審査
- 職員配置や公定価格の計算
- 監査書類の提出・通知
- 実施通知・結果通知などの管理
また、資料作成時点では、令和8年度から40都道府県、416市区町村が利用を開始する予定とされています。(保育業務施設管理プラットフォーム-p.6)
ただし、これは資料作成時点の予定数です。全国的な基盤として整備されることと、すべての自治体・施設が同時に利用できることは同じではありません。実際の利用開始時期や対象範囲は、自治体からの案内を確認する必要があります。
今後予定されている機能拡充
今後は、次のような機能の追加・拡充が予定されています。(保育業務施設管理プラットフォーム-p.7、保育業務施設管理プラットフォーム-p.8)
- 施設型給付の広域請求
- 施設等利用給付
- 延長保育事業
- 実費徴収に係る補足給付
- 監査調書の入力・申請・審査
- 認可外保育施設への指導監督
- 給付・監査データの連携
- 保育ICTシステムとの登降園情報のAPI連携
- 子ども・子育て支援システムとのAPI連携
初年度からすべての手続きが完全に一本化されるのではなく、年度ごとに機能を拡充していく方針です。
保活情報連携基盤で保護者の手続きはどう変わるのか
保活情報連携基盤とは
保活情報連携基盤は、保活に関する情報収集や施設見学の予約、就労証明書の発行などをオンライン化するための全国的な基盤です。(保活情報連携基盤-p.12)
主な対象は次のとおりです。
- 保育施設の情報検索
- 自治体の手続情報の確認
- 施設見学の予約
- 就労証明書の発行依頼・受け取り・管理
想定される利用の流れ
保護者は、スマートフォンなどから次のような手続きを進められる想定です。(保活情報連携基盤の主な機能-p.13、保活情報連携基盤の主な機能-p.14)
- 居住自治体の手続情報を確認する
- 保育施設の情報を検索・比較する
- 見学可能な日時を確認する
- 施設見学をオンラインで予約する
- 就労証明書の発行を勤務先に依頼する
- 発行された就労証明書を受け取って管理する
- 必要書類を電子申請に添付する
自治体が設定する「保活ToDoリスト」により、必要な手続きや時期を確認しやすくする機能も想定されています。(保活情報連携基盤-p.12)基盤上では、スマートフォンから24時間いつでも情報収集や予約を行える仕組みが想定されています。ただし、利用できる施設、予約枠、予約の承認方法などは、自治体や施設の導入状況によって異なる可能性があります。(保活情報連携基盤の主な機能-p.13)
入所申請は別の電子申請システムで行う
注意したいのは、入所申請そのものです。保活情報連携基盤は、施設検索、見学予約、就労証明書の発行などを対象とします。入所申請は、マイナポータルの「ぴったりサービス」などの電子申請システムで行うとされています。(保活情報連携基盤の主な機能-p.14)
つまり、保活に関するすべての手続きが、1つのシステムだけで完結するわけではありません。
利用者ごとの主な機能
| 利用者 | 想定される主な機能 |
| 保護者 | 施設検索、情報確認、見学予約、就労証明書の管理 |
| 保育施設 | 施設情報の登録、見学予約申請の確認 |
| 企業 | 就労証明書の発行 |
| 自治体 | 手続情報・空き枠情報の登録、更新 |
資料作成時点では、令和8年度から31都道府県、167市区町村が利用を開始する予定とされています。(保活情報連携基盤-p.12)利用可能地域は自治体ごとに異なるため、最新の案内を確認してください。
ICT導入に利用できる補助制度
保育所等におけるICT化推進等事業
「保育所等におけるICT化推進等事業」は、保育士の周辺業務や補助業務の負担軽減を目的に、ICTシステムや機器の導入費用の一部を補助する事業です。(令和8年3月版 保育所等におけるICT化推進等事業①-p.2、令和8年3月版 保育所等におけるICT化推進等事業②-p.4)実施主体は都道府県・市区町村です。施設が実際に申請する際の窓口、時期、必要書類などは、所在地の自治体が定める募集要項などで確認する必要があります。(令和8年3月版 保育所等におけるICT化推進等事業②-p.4)
基本4機能の補助基準額
| 導入機能数 | 補助基準額 | 端末購入等を伴う場合 |
| 1機能 | 20万円 | 70万円 |
| 2機能 | 40万円 | 90万円 |
| 3機能 | 60万円 | 110万円 |
| 4機能 | 80万円 | 130万円 |
対象となる機能は、次の4つです。
- 保育に関する計画・記録
- 保護者との連絡
- こどもの登降園管理などの業務
- 実費徴収などのキャッシュレス決済
表の金額は制度上の補助基準額です。実際の交付額は、対象経費、補助率、自治体の予算、施設の設置主体などによって決まります。(令和8年3月版 保育所等におけるICT化推進等事業②-p.4)原則として1施設1回限りの対象ですが、新たにキャッシュレス決済機能を導入する場合や、保育業務施設管理プラットフォームを導入している施設が新たに登降園管理機能を導入する場合には、過去に補助を受けていても対象となる扱いが示されています。(令和8年3月版 保育所等におけるICT化推進等事業②-p.4)
その他の主な補助対象
| 対象 | 補助基準額 |
| 翻訳機など | 1施設あたり15万円 |
| こども誰でも通園制度に必要なICT機器 | 1施設あたり20万円 |
| 病児保育の予約・キャンセル等のICT化 | 1市区町村あたり500万円、1施設あたり100万円、1都道府県あたり1,000万円 |
| 医療的ケア児受入施設のICT機器 | 1施設あたり20万円 |
| 認可外保育施設の機器 | 1施設あたり20万円 |
| 研修のオンライン化 | 1自治体あたり400万円 |
| 児童館のICT化 | 1施設あたり50万円 |
補助率は、事業内容、施設の設置主体、自治体の財政力指数、協議会の設置状況などによって異なります。(令和8年3月版 保育所等におけるICT化推進等事業②-p.4)導入を検討する場合は、国の制度概要だけでなく、自治体の公募要領や補助金の実施要綱を確認することが重要です。
保育ICTラボで導入後の活用を支援
ICTは、導入するだけで業務改善が完了するものではありません。職員が使い方を理解し、施設の業務に合わせて運用することが必要です。
「保育ICTラボ事業」では、次の3つを組み合わせたモデル的な取り組みを支援します。(新規 保育ICTラボ事業-p.20)
- 先端的な保育ICTのショーケース化
- ICT相談窓口の設置・人材育成
- ネットワーク形成・普及啓発
資料では、次のような地域の事例が紹介されています。(新規 保育ICTラボ事業-p.21)
- 北海道厚沢部町:保育ICT、フォトAI、一時保育への活用
- 茨城県つくば市:ICT導入・活用に向けた地域伴走支援
- 東京都江東区:登降園管理、連絡帳、計画・記録、フォトAI、保活DX
- 兵庫県神戸市:給付DX、安全管理、キャッシュレス、AI写真管理
- 静岡県:グループウェア、AIチャットボット、モバイルディスプレイ
- 千葉県柏市:基本4機能、午睡チェック、フォトAI、インカム、AIカメラ
- 岡山県岡山市:AI顔認証、文章作成補助、画像生成、AI写真管理、午睡チェック
これらは全国一律に導入される機能ではなく、各地域で行われるモデル的な取り組みです。
事例に共通しているのは、システム導入に加えて、次の支援を組み合わせている点です。
- ICT相談窓口
- ICT推進人材の育成
- 巡回支援や伴走支援
- 研修動画やeラーニング
- 施設・自治体間のネットワーク形成
- 成果報告会や普及啓発
保育ICTラボ事業の令和7年度補正予算は2億円とされています。(新規 保育ICTラボ事業-p.20)
関連するシステムの役割
保育DXでは、複数のシステムが連携して利用される想定です。(将来的なシステム概要図-p.9)
| システム | 主な役割 |
| 保育業務施設管理プラットフォーム | 給付・監査など、保育施設と自治体間の手続き |
| 保活情報連携基盤 | 施設検索、見学予約、就労証明書発行などの保活手続き |
| ここdeサーチ | 保育施設等の情報公表・検索 |
| 子ども・子育て支援システム | 自治体の認定・入所審査、給付金計算結果の管理など |
| 保育ICTシステム | 保育施設が利用する計画・記録、連絡、登降園管理など |
| 電子申請システム | 入所申請などのオンライン申請 |
今後は、保育業務施設管理プラットフォームと子ども・子育て支援システムとのAPI連携、保育ICTシステムからの職員情報や登降園情報の連携などが予定されています。(将来的なシステム概要図-p.9、保育業務施設管理プラットフォーム改修事業-p.10、保活情報連携基盤の改修業務-p.15)
ただし、すべての情報が初めから自動連携されるとは限りません。既存システムとの連携範囲やデータ移行の方法は、今後の仕様や自治体・事業者の案内を確認する必要があります。
保育DX関連事業の予算
資料には、主に次の予算額が記載されています。(令和8年3月版 保育所等におけるICT化推進等事業①-p.3、保育業務施設管理プラットフォーム改修事業-p.10、保活情報連携基盤の改修業務-p.15、新規 保育ICTラボ事業-p.20)
| 事業 | 予算 |
| 保育所等におけるICT化推進等事業 | 令和7年度補正予算13億円 |
| 保育業務施設管理プラットフォーム改修事業 | 令和7年度補正予算15億円 |
| 保育業務施設管理プラットフォーム運用保守業務 | 令和8年度予算案9億円 |
| 保活情報連携基盤改修業務 | 令和7年度補正予算3億円 |
| 保活情報連携基盤運用保守業務 | 令和8年度予算案6億円 |
| 保育ICTラボ事業 | 令和7年度補正予算2億円 |
予算案は、その後の国会審議などによって変更される可能性があります。記事公開時点では、最新の予算資料で確認する必要があります。
保育DXの目標
資料では、令和8年度に向けて次の目標が掲げられています。(3.(4) 保育DXの推進による業務改善-p.2)
- 保活に関する利用者の満足度:70%以上
- 参加施設における見学予約のオンライン申請率:60%以上
- 保育業務施設管理プラットフォームの満足度:70%以上
- 保育所等のICT導入率:令和7年度100%
- 基本4機能をすべて導入している割合:20%以上
これらは政策上の目標であり、現時点の実績値とは異なります。実際の達成状況や調査方法は、今後公表される事業評価や成果報告で確認する必要があります。
まとめ
保育DXは、保育現場に新しいシステムを導入するだけの施策ではありません。
主な取り組みは次の4つです。
- 保育計画・記録、保護者連絡、登降園管理、キャッシュレス決済などのICT化
- 給付・監査手続きをオンライン化する保育業務施設管理プラットフォーム
- 施設検索、見学予約、就労証明書発行などを支援する保活情報連携基盤
- ICT相談、人材育成、伴走支援、先進事例の横展開を行う保育ICTラボ
これらを通じて、紙、手書き、郵送、再入力などの事務負担を軽減し、保育士や自治体担当者が本来注力すべき業務に時間を使える環境を整えることが目指されています。保育施設が導入を検討する際は、次の点を確認しましょう。
- 基本4機能のうち、どの業務から導入するか
- 既存の保育ICTシステムと連携できるか
- 補助制度の対象になるか
- 補助率や自己負担額はいくらか
- 申請時期と必要書類は何か
- 導入後の研修や相談支援があるか
補助金の申請時期、対象経費、補助率、利用可能なシステムは、自治体や事業内容によって異なります。導入にあたっては、国の制度概要だけでなく、所在地の自治体が公表する最新の募集要項や利用案内を確認してください。保育DXの最終的な目的は、事務作業の効率化そのものではありません。効率化によって生まれた時間を、こどもと向き合う時間や、保育の質の確保・向上につなげることにあります。
※自治体数、予算額、機能、導入時期は、上記資料の記載内容に基づいています。記事公開時点の最新情報とは異なる可能性があります。

