はじめに
医療的ケア児の生活は、NICU・GCUから退院した後も、医療だけで完結するものではありません。
在宅でのケアを続けながら、保育所や学校、放課後児童クラブを利用するには、看護職員の配置や、医療・福祉・教育・保育の連携が必要です。保護者の付き添い、夜間のケア、きょうだい児との時間、仕事との両立、緊急時の預け先など、家族への支援も欠かせません。
こども家庭庁の資料では、医療的ケア児と家族を支える主な取組として、16の制度・事業が示されています(医療的ケア児の支援に向けた主な取組-p.1)。
ただし、この16の取組には、家庭が直接申請して利用する制度だけでなく、自治体、医療機関、保育所、学校などの受け入れ体制を整える補助事業や、診療報酬・公定価格上の評価も含まれます。制度によって対象年齢、利用条件、費用、申請窓口、実施地域が異なるため、利用を検討する際は自治体や施設への確認が必要です。
本記事では、16の取組を「退院前後」「在宅生活」「保育・学校」「緊急時」「経済的支援」などの生活場面別に整理します。
16の取組の全体像
| 番号 | 取組 | 主な内容 |
| ① | 地域療育支援施設運営事業 | NICU等から在宅生活への移行支援 |
| ② | 日中一時支援事業 | 在宅移行後の一時的な受入れ |
| ③ | こども家庭センター | 子どもと家庭への包括的な相談支援 |
| ④ | 医療的ケア児等総合支援事業 | 支援センター、相談、関係機関連携 |
| ⑤ | 医療的ケア児等医療情報共有システム(MEIS) | 救急・災害時の医療情報共有 |
| ⑥ | 診療報酬改定 | 医療的ケア児・者の診療を評価 |
| ⑦ | 障害福祉サービス等報酬改定 | 障害児支援を充実 |
| ⑧ | 医療型短期入所事業所開設支援 | 短期入所の受け皿を整備 |
| ⑨ | 医療的ケア児保育支援事業 | 保育所等の受入体制を整備 |
| ⑩ | 療育支援加算 | 保育所等で専門職を活用 |
| ⑪ | 医療的ケア看護職員配置事業 | 学校に看護職員を配置 |
| ⑫ | 学校における医療的ケア実施体制整備事業 | 保護者の付き添い負担を軽減 |
| ⑬ | 障害児受入強化推進事業 | 放課後児童クラブの受入体制を整備 |
| ⑭ | 小児慢性特定疾病の医療費助成 | 医療費の自己負担を軽減 |
| ⑮ | 小児慢性特定疾病児童等自立支援事業 | 相談、交流、自立を支援 |
| ⑯ | こどもホスピス支援モデル事業 | 重い病気の子どもと家族を地域で支援 |
NICU・GCUから在宅生活への移行
1. 地域療育支援施設運営事業
NICUなどに長期入院している子どもが、家族とともに在宅生活へ移行できるよう、保護者が必要な知識や技術を身につけるトレーニングを行う地域療育支援施設の運営を支援します(医療的ケア児の支援に向けた主な取組-p.2)。
小児科医や理学療法士などで構成される医療チームを設け、専用病床を2床以上確保する施設が想定されています。
退院後に必要となるケアを、入院中から家族が学ぶ機会を設けることで、NICU・GCUから在宅生活への移行を円滑にすることが目的です。
2. 日中一時支援事業
NICUなどに長期入院していた子どもが在宅へ移行した後、定期的な医学管理を受けながら、一時的に医療機関で受け入れられる体制を整備します(医療的ケア児の支援に向けた主な取組-p.2)。
家族にとっては、介護や医療的ケアによる負担を一時的に軽減し、休息を確保する機会になります。
受け入れ施設には、呼吸管理に必要な機器や、小児科医などによる医療チームが整備されます。
これらの事業は、NICUなどの満床解消に加え、子どもの在宅療養への円滑な移行を支えることを目的としています。
相談と地域の連携体制
1. こども家庭センター
こども家庭センターは、妊産婦や乳幼児の健康保持に関する包括的な支援に加え、すべての子どもと家庭を対象に、相談や支援を切れ目なく行う市区町村の機関です(医療的ケア児の支援に向けた主な取組-p.2)。
医療的ケア児への支援では、医療的ケア児支援センター、市区町村、医療機関、相談支援事業所などと連携します。
2. 医療的ケア児等総合支援事業
医療的ケア児や重症心身障害児を地域で受け入れるため、自治体の体制整備、支援者研修、関係者が協議する場の設置、家族支援などを総合的に実施します(医療的ケア児の支援に向けた主な取組-p.2、医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律の基本理念の実現-p.9)。
医療的ケア児支援センターでは、次のような支援が行われます。
- 家族からの相談への対応
- 地域で利用できる支援や資源の情報提供
- 市区町村や相談支援事業所へのつなぎ
- 医療・福祉・教育・保育などの関係機関の連携
- 支援者向け研修
- 日中の居場所や活動の支援
- 一時預かりの環境整備
- 非常用電源の整備
令和8年5月時点では、47都道府県が医療的ケア児支援センターを設置しています(医療的ケア児の支援に向けた主な取組-p.2)。
「どこに相談すればよいか分からない」「緊急時の預け先がない」「仕事と育児を両立したい」といった相談は、まず医療的ケア児支援センターや市区町村に相談するとよいでしょう。
在宅生活と家族の休息
1. 医療型短期入所事業所開設支援
医療的ケアが必要な重症心身障害児者などが、身近な地域で短期入所を利用できるよう、病院や介護老人保健施設による医療型短期入所事業所の開設を支援します(医療型短期入所事業所開設支援-p.14)。
主な内容は次のとおりです。
- 新規開設を検討する医療機関などへの講習会
- 新規開設事業所の職員への実地研修
- 既存事業所による現地指導
- 開設後のアフターフォロー
これは主に事業所の開設を支援する制度です。家庭が実際に短期入所を利用するには、障害福祉サービスの手続きや施設ごとの利用条件の確認が必要です。
2. 障害福祉サービス等報酬改定
障害福祉サービス等報酬では、医療的ケア児や重症心身障害児など、専門的な支援が必要な障害児への支援を充実させます(⑦障害福祉サービス等報酬-p.1)。
対象となるサービスには、障害児通所支援、居宅介護、短期入所などがありますが、具体的な加算や算定要件はサービスや事業所によって異なります。
報酬上の評価は事業所の体制整備に関するものであり、すべての事業所で同じ支援を受けられることを意味するものではありません。
保育所などでの受け入れ
1. 医療的ケア児保育支援事業
保育所などで医療的ケア児を受け入れられるよう、自治体や施設の体制整備を支援します(医療的ケア児保育支援事業-p.15)。
主な内容は次のとおりです。
- 看護師などの配置
- 保育士などの研修受講
- 医療的ケア児保育支援者の配置
- 受け入れガイドラインの策定
- 自治体による検討会の設置
- 保護者や施設との調整
- 医療的ケアに必要な備品の整備
- 外部バッテリーや手動式吸引器などの災害対策
- 園外活動時の移動支援
自治体が看護師などを確保し、複数の保育所を巡回する仕組みも想定されています。
令和8年度末までは、医療的ケア児の受け入れを開始する自治体に対し、補助率を引き上げる経過措置があります。
ただし、国の補助制度があることと、希望する保育所を必ず利用できることは同じではありません。医療的ケアの種類、看護師の配置、保護者の付き添い、園外活動への対応などは自治体や施設に確認が必要です。
2. 療育支援加算
保育所などで医療的ケア児を含む障害児の受け入れ体制を強化するため、療育支援加算が見直されます(療育支援加算(公定価格)-p.16、ために主任保育士等の代替職員を配置する「療育支援加算」について、以下の見直しを行う。-p.17)。
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、心理担当職員、保健師、看護師などの専門職を、配置または嘱託などで活用するための区分が設けられます。
また、次のような取組が重視されます。
- 支援が必要な子どもの把握と職員間での共有
- 個別の支援計画・指導計画の作成
- 子どもの特性に応じた教育・保育
- 障害児通所支援事業所などとの連携
- 保護者への相談支援
- 保護者同士の交流機会の提供
- 地域の関係機関との連携
学校生活と保護者の付き添い
1. 医療的ケア看護職員配置事業
学校で安全に医療的ケアを行えるよう、自治体などによる看護師等の配置を支援します(⑪医療的ケア看護職員配置事業-p.4、切れ目ない支援体制整備充実事業-p.18)。
校外学習、修学旅行、登下校時の送迎車両への同乗も対象に含まれます。
令和8年度は5,300人分の配置が想定され、前年度から400人増えています。自治体の判断により、訪問看護ステーションなどへ委託することも可能です。
2. 学校における医療的ケア実施体制整備事業
学校生活や登下校時における保護者の付き添い負担を軽減するため、自治体が実態調査や取組の検証を行います(学校における医療的ケア実施体制整備事業-p.19)。
主な取組は次のとおりです。
- 保護者の付き添い状況の把握
- 医療・保健・福祉関係者や保護者による見直し方針の検討
- 学校での取組の実施・検証
- 効果的な事例の全国への周知
早期の情報共有、医療・福祉との連携、付き添いに関するマニュアルの見直し、看護師や教職員への研修などが想定されています。
放課後児童クラブ
障害児受入強化推進事業
放課後児童クラブで医療的ケア児を受け入れるため、看護師などの配置に必要な経費を補助します(障害児の受け入れに伴う補助事業について-p.20)。
また、次の費用も対象になります。
- 喀痰吸引等の研修を受ける際の代替職員の配置
- 医療的ケア児の送迎
- 病院への付き添い
- 受け入れに必要な設備や備品の整備
放課後の居場所を確保することは、子どもの生活の場を広げるだけでなく、保護者の就労継続や家族の時間の確保にもつながります。
緊急時・災害時の備え
医療的ケア児等医療情報共有システム(MEIS)
MEISは、医療的ケア児などが救急時、災害時、事故などに遭遇した際、医師や医療機関が必要な患者情報を迅速に共有できるようにするシステムです(に必要な患者情報を共有できるようにするためのシステム。-p.10)。
医療的ケア児は、原疾患や心身の状態が一人ひとり異なります。遠方に緊急搬送された場合にも、必要な情報を速やかに共有できることが重要です。
令和2年7月29日に本格運用を開始し、令和8年4月末時点では、医療的ケア児等441人、医師464人が登録しています。
登録方法や共有される情報については、主治医や関係機関に確認してください。
診療体制の強化
診療報酬改定
令和8年度の診療報酬改定では、医療的ケア児・者に関して、次の見直しが行われます(⑥診療報酬改定-p.3、障害者歯科治療における歯科医学的管理の新たな評価-p.11、療養病棟入院基本料の見直し-p.12、遠隔連携診療料の評価の拡大②-p.13)。
- 外来診療・訪問診療におけるD to P with Dによるオンライン診療の活用
- 超重症児を医療区分3、準超重症児を医療区分2の対象に追加
- 療養病棟入院基本料2における医療区分2・3の患者割合を5割以上から6割以上へ変更
- 障害者歯科医療における特別な歯科医学的管理の評価
障害者歯科医療では、特別管理加算80点が新設されます。人工呼吸器の使用、気管切開、重い呼吸器疾患、治療への協力が難しい状態などが対象に含まれます。
診療報酬上の評価は、医療機関が一定の要件を満たした場合の算定に関するものです。すべての医療機関で利用できることを意味しないため、対応可否や自己負担は医療機関に確認が必要です。
医療費助成と自立支援
1. 小児慢性特定疾病の医療費助成
小児慢性特定疾病の子どもを対象に、治療にかかる医療費の自己負担分の一部を助成します(小児慢性特定疾病児童等への医療費助成の概要-p.21)。
令和8年度の対象疾病数は、16疾患群・801疾病です。
対象者は、原則として18歳未満の児童のうち、症状が一定程度にある人です。18歳到達時点で制度の対象となっており、引き続き治療が必要と認められる場合は、20歳未満まで対象となります。
自己負担は所得に応じて設定されます。
なお、医療的ケア児であることだけで、自動的にこの助成の対象になるわけではありません。対象疾病と症状の要件を満たす必要があります。
2. 小児慢性特定疾病児童等自立支援事業
小児慢性特定疾病の子どもや家族に対し、相談支援、相互交流支援などを行います(小児慢性特定疾病児童等への医療費助成の概要-p.21)。
医療費の負担軽減だけでなく、学校生活、社会参加、自立に向けた生活を支える制度です。具体的な支援内容や窓口は、自治体によって異なります。
こどもホスピス
こどもホスピス支援モデル事業
生命を脅かされる状態、いわゆるLTCにある子どもや、重い病気の子どもと家族を地域で支えるモデル事業です(タイトルなし-p.22、成育局成育環境課-p.23)。
医療だけでなく、次のような支援を含みます。
- 子どもの遊びや学び
- 子ども同士の交流
- きょうだい児への支援
- グリーフ・ケア
- 家族への相談や交流支援
- 子どものアドボカシー
支援形態には、拠点型、訪問型、遠隔型、複合型があります。
この事業は、自治体や民間団体による地域の取組を支援するものです。全国で同じサービスを利用できる制度ではないため、実施地域や利用条件は自治体や連携団体に確認する必要があります。
まとめ
医療的ケア児と家族への支援は、退院後の在宅生活だけでなく、保育、学校、放課後、医療費、緊急時、家族の休息や交流まで、生活全体に及びます。
今回紹介した16の取組は、次のように整理できます。
- NICU・GCUから在宅生活へ移行するための支援
- 日中一時支援や医療型短期入所による家族の負担軽減
- 医療的ケア児支援センターやこども家庭センターでの相談
- 保育所、学校、放課後児童クラブの受け入れ体制整備
- 保護者の付き添い負担の軽減
- MEISによる救急時・災害時の医療情報共有
- 診療報酬・障害福祉サービス等報酬による受け入れ体制の強化
- 小児慢性特定疾病の医療費助成と自立支援
- こどもホスピスによる遊び、学び、交流、家族支援
困りごとがある場合は、「退院後のケア」「短期入所」「保育」「学校」「放課後」「医療費」「緊急時」などに分けて整理し、医療的ケア児支援センター、市区町村、医療機関、相談支援事業所などに相談するとよいでしょう。
ただし、対象年齢、利用条件、費用、申請窓口、対応できる医療的ケアの範囲は、制度・自治体・施設によって異なります。実際に利用を検討する際は、居住地の担当窓口や利用先に確認してください。

