はじめに
学校図書館には、子どもたちが知りたい情報や、授業で活用できる資料が十分にそろっているでしょうか。学校図書館の整備というと、蔵書数を増やすことを思い浮かべるかもしれません。しかし、文部科学省と総務省の第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」は、蔵書数だけでなく、古い図書の更新、新聞の配備、学校司書の配置まで含めた環境整備を進めるものです(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.1)。
ここでは、令和4年度から令和8年度を対象とする計画の内容と、学校・教育委員会・自治体に求められる対応を紹介します(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.1)。
第6次5か年計画の3本柱
第6次計画の期間は、令和4年度から令和8年度までの5年間です。主な柱は次の3つです。
- 学校図書館の図書を整備・更新する
- 学校図書館に新聞を配備する
- 専門的な知識や技能を持つ学校司書を配置する
計画に伴う地方財政措置は、単年度で480億円、5年間で2,400億円です(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.2)。
| 項目 | 単年度 | 5年間 |
| 図書整備 | 199億円 | 995億円 |
| 新聞配備 | 38億円 | 190億円 |
| 学校司書配置 | 243億円 | 1,215億円 |
| 合計 | 480億円 | 2,400億円 |
図書整備費のうち、単年度39億円、5年間で195億円は不足冊数を補うために、単年度160億円、5年間で800億円は図書の更新に充てる想定です(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.2)。
つまり、計画は単に本の冊数を増やすだけでなく、古くなった蔵書を見直し、現在の学習に対応できる図書館を整えることを重視しています。
蔵書数だけでなく、図書の更新も重要
学校図書館には、学校の学級数などに応じて整備すべき蔵書数の目安として「学校図書館図書標準」が設けられています(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.1)。
図書標準を達成している学校の割合は、平成27年から令和元年にかけて増加しました(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.1)。
- 小学校:58.8%から69.1%へ
- 中学校:57.1%から65.9%へ
一方で、刊行から時間が経過し、最新の情報が反映されていない図書が保有されていることも課題です(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.1)。
蔵書数が基準を満たしていても、内容が古くなっていれば、調べ学習や授業で使いにくい場合があります。学校図書館の整備では、次の3点を分けて考える必要があります。
- 学校規模に応じた冊数をそろえる
- 古くなった図書を適切に廃棄する
- 新しい情報や多様なテーマの図書に更新する
しかし、図書の選定基準や廃棄基準を策定している学校は、資料上では半数程度にとどまっています(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.1)。
校長のリーダーシップのもと、図書の現状把握や選定・廃棄・更新を行う校内組織を設け、計画的に蔵書を管理することが重要です(学校図書館ガイドライン-p.5)。
新聞の複数紙配備で情報を比較する
第6次計画では、学校図書館への新聞配備も進めます。目標は次のとおりです(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.2)。
- 小学校等:2紙
- 中学校等:3紙
- 高等学校等:5紙
複数の新聞を読み比べると、同じ出来事について異なる見方があることに気づき、情報を比較・検討する学習につなげられます。
背景には、選挙権年齢や成年年齢が18歳に引き下げられたことを踏まえ、児童生徒が主権者として必要な資質・能力を身につけることの重要性があります(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.2)。
資料では、学校に配備される新聞の平均紙数が、次のように増加したことも示されています(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.1)。
- 小学校:1.3紙から1.6紙
- 中学校:1.7紙から2.7紙
- 高等学校:2.8紙から3.5紙
比較対象となる年度は学校種によって異なるため、これらの数値を利用する際は、文部科学省の調査年度を併記する必要があります(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.1)。
配備する新聞は、全国紙や地方紙に限りません。小学生新聞、中高生新聞、専門紙、英字新聞など、児童生徒の発達段階や地域の実情に応じた選択が想定されています(学校図書館ガイドライン-p.5)。
学校司書は図書館運営や授業を支援する
学校司書は、学校図書館の日常的な運営・管理や、図書館を活用した教育活動を支援します。校長や司書教諭、教科担当教員と連携しながら、専門性を生かすことが期待されています(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.3)。
資料では、次のような活動が紹介されています(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.3)。
- 児童生徒の読書量や読書への関心を把握する
- 継続的な読書指導を支援する
- 授業での情報収集を支援する
- 司書教諭や教科担当教員と教材研究を行う
- ビブリオバトルなどの読書活動を企画する
例えば、担任と学校司書が協働して読書への関心を把握し、継続的な読書指導につなげる取組があります。また、学校司書が授業に参加し、情報収集や教材研究を支援する事例も示されています(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.4)。
第6次計画では、小・中学校等のおおむね1.3校に1人の学校司書配置を目指しています。将来的には、1校に1人の配置が目標です(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.2)。
なお、学校司書の配置率が高い都道府県では、図書標準達成率、新聞配備率、図書購入冊数、選定基準・廃棄基準の策定率も高い傾向が示されています(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.1)。
ただし、これは指標同士の相関関係を示したものです。学校司書を配置すれば、必ず整備状況が改善するという因果関係を証明したものではありません。自治体の予算や教育方針、学校の体制など、複数の要因が関係している可能性があります。
読書環境は学びの機会を広げる
資料では、読書と学力・能力に関する調査結果も紹介されています。
- 読書が好きな小学生は、平均正答率が高い傾向にある
- 子どもの頃の読書量が多い人は、自己理解力、批判的思考力、主体的行動力などが高い傾向にある
- 子どもの頃の読書量が多い人は、認知機能も高い傾向にある(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.1)
ただし、これらは読書と学力・能力の関連や傾向を示すものであり、読書だけが学力や能力を決めることを意味しません。
学校図書館の役割は、読書量を増やすことだけではありません。本や新聞を通して、考える、調べる、比較する、表現するといった学習の機会を広げることにもあります。
図書・新聞・端末を組み合わせる
学校図書館は、紙の本を貸し出すだけの場所ではありません。資料では、図書と端末を活用したハイブリッド型の図書館活用授業も紹介されています(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.3)。
図書、新聞、端末には、それぞれ異なる特性があります。目的に応じて情報源を使い分けることで、調べ学習や情報活用をより充実させることができます。
福井県立金津高等学校では、全校生徒が新聞記事を読み比べる取組を続け、小論文や調べ学習に新聞を活用する生徒が増えたと紹介されています(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.3)。
図書、新聞、学校司書、端末は、どれか一つを選ぶものではありません。それぞれを組み合わせて、子どもが情報を探し、比較し、考える学習環境をつくることが重要です。
学校・教育委員会・自治体が連携する
学校図書館の整備は、学校だけで完結するものではありません。学校、教育委員会、自治体が役割を分担しながら進める必要があります(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.4)。
学校が行うこと
- 学校図書館の現状を把握する
- 整備が必要な図書や資料の優先順位を整理する
- 校長、教頭、教務主任、事務職員などによる校内組織を設ける
- 学校司書との連携方法を検討する
- 教育委員会に状況や要望を伝える
教育委員会が行うこと
- 各学校の状況や要望を把握する
- 図書整備、新聞配備、学校司書配置の複数年計画を策定する
- 学校図書館担当指導主事の配置や研修を行う
- 学校図書館支援センターを設置・活用する
- 財政部局に必要性や政策効果を説明する
自治体が行うこと
- 学校図書館整備を教育施策として位置づける
- 首長と教育委員会が教育政策の方向性を共有する
- 必要な予算を確保する
- 地域の実情に応じた整備計画を進める
東京都葛飾区では、教育委員会が各新聞社と直接契約を結び、全校分の新聞を一括調達することで、学校の契約手続きや購読料支払いの事務負担を軽減した事例が紹介されています(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.4)。
地方交付税の措置額が、そのまま学校図書館費になるわけではない
図書、新聞、学校司書に必要な経費は、地方交付税による財政措置の対象となっています(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.4)。
ただし、地方交付税は使途が特定されない一般財源です。地方財政措置があるからといって、図書購入費や新聞購読費、学校司書の配置費用が自動的に確保されるわけではありません。
自治体が学校図書館の現状と必要性を把握し、予算化することが必要です(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.4)。
資料には、令和5年度ベースの試算例として、次の金額が示されています(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.5)。
| 項目 | 小学校 | 中学校 |
| 図書費 | 1学級あたり40.7千円 | 1学級あたり63.1千円 |
| 新聞費 | 1学級あたり3.5千円 | 1学級あたり12.8千円 |
| 学校司書費 | 1校あたり1,157千円 | 1校あたり1,111千円 |
これは地方交付税の算定に用いる標準的な経費の試算であり、自治体や学校に同額が直接配分されることを意味するものではありません。補正係数も考慮されていません(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.5)。
自治体は、学級数や学校数などをもとにした試算額と実際の予算額を比較し、整備計画を検討することができます。
重要なのは、図書や新聞、学校司書を配置すること自体を目的にしないことです。整備によって、いつまでに学校や授業をどのように変えるのかを明確にする必要があります。
学校図書館ガイドラインを活用する
平成28年11月に策定された「学校図書館ガイドライン」は、学校図書館の運営に関する望ましい在り方を示しています(学校図書館ガイドライン-p.5)。
校長は「学校図書館長」としての役割も担います。校長のリーダーシップのもと、次の取組を進めることが求められています(学校図書館ガイドライン-p.5)。
- 図書の現状を把握する
- 図書の選定・廃棄・更新を適切に行う
- 図書選定のための校内組織を設置する
- 選定基準・廃棄基準を策定する
また、学校司書が専門性を発揮できるよう、継続的・安定的に職務に従事できる環境を整えることも重要です。司書教諭の授業負担の軽減とあわせて、学校図書館の人的整備を進めることが求められています(学校図書館ガイドライン-p.5)。
特別支援学校では、読書バリアフリーの観点も欠かせません。多様な子どもが利用できる資料や支援体制を整えることが必要です(学校図書館ガイドライン-p.5)。
まとめ
第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」は、令和4年度から令和8年度までの5年間で、学校図書館を総合的に整備する計画です(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.1)。
ポイントは次の3つです。
- 学校図書館図書標準の達成と、古い図書の計画的な更新
- 複数の新聞を活用した情報比較や主権者教育
- 学校司書の配置拡充による図書館運営・授業支援の充実
学校図書館の整備は、蔵書数をそろえるだけの取組ではありません。新しい情報、人による支援、紙とデジタルの学習環境を組み合わせ、子どもが自ら調べ、考え、学ぶ環境をつくる取組です。
学校や自治体の状況を確認する際は、教育振興基本計画、学校図書館整備計画、予算書なども確認するとよいでしょう。学校が現状と課題を整理し、教育委員会が複数年の計画を立て、自治体が必要な予算を確保することが、整備を進める第一歩になります(第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」概要資料-p.4)。

