導入
学部と大学院を別々の段階として切り分けるのではなく、ひと続きの教育課程として設計する。文部科学省が示したのは、そうした発想に基づく制度改正の考え方です。
ここでいう「連続課程」とは、学部教育と大学院教育の連続性に配慮し、学士課程から修士課程、さらに博士課程までを見通して編成する教育課程のことです(学部・研究科の連続性に配慮した-p.1)。
今回の資料では、この連続課程を編成しやすくするための制度整備に加え、一定の条件を満たす場合には修士課程の標準修業年限を短縮しうる特例制度を設ける方針が示されています(学部・研究科の連続性に配慮した教育課程の促進に係る制度改正(大学設置基準等の一部改正)(案)-p.4)。
ただし、狙いは単なる「早期化」ではありません。学部で身に付ける基礎的な力と、大学院で求められる高度な研究能力・専門性を、より有機的につなぎ、教育の質と密度を高めることが目的です(学部・研究科の連続性に配慮した教育課程の促進に係る制度改正(大学設置基準等の一部改正)(案)-p.4)。
まず、学部と大学院では何を育てるのか
資料では、大学院教育の目的が課程ごとに整理されています(大学院教育の目的と養成する人材に求められる能力-p.2)。
- 修士課程
広い視野に立って精深な学識を授け、研究能力や高度専門職業人としての卓越した能力を培う - 博士課程
自立して研究活動を行う、または高度専門業務に従事するための高度な研究能力と豊かな学識を養う - 専門職学位課程
高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識と卓越した能力を培う
一方、学士課程で身に付けるべき力としては、次のような普遍的スキルが挙げられています(大学院教育の目的と養成する人材に求められる能力-p.2)。
- 論理性や批判的思考力
- 広い視野
- コミュニケーション能力
- 他者と共生する力
- 創造力
- 変化への適応力
- 主体性と責任感を備えた行動力
- データ処理・活用能力
さらに、大学院が養成する「知のプロフェッショナル」に求められる力としては、次のような能力が示されています(大学院教育の目的と養成する人材に求められる能力-p.2)。
- 最先端の知にアクセスする能力
- 自ら課題を発見し設定する力
- 仮説を構築し検証する力
- 社会的・経済的価値を判断・創出する能力
- 高度な英語力を含むコミュニケーション能力
- 倫理観
- マネジメント能力
つまり、学部での学びと大学院での学びは分断されるものではなく、段階的につながっているべきだという考え方です。
これまでにも、学部と大学院の接続は議論されてきた
資料では、これまでの中央教育審議会の議論も紹介されています(学部と大学院の連携に関するこれまでの議論等-p.3)。
たとえば、平成31年の審議まとめでは、学士課程から修士課程に直接進学する者に対して、学部段階の教育との有機的な接続が必要だと整理されています(学部と大学院の連携に関するこれまでの議論等-p.3)。
また、平成27年の審議まとめでは、人文・社会科学分野でも、産業界等との協働によるプロジェクト型科目やインターンシップ、文理横断の授業科目、学士・修士一貫教育の推進が有効だとされています(学部と大学院の連携に関するこれまでの議論等-p.3)。
工学系の議論でも、学士課程との連携を強化した学部・大学院連結教育プログラムや、学士・修士の6年一貫制教育の検討が示されてきました(学部と大学院の連携に関するこれまでの議論等-p.3)。
今回の制度改正案は、こうした流れを受けて、縦方向の連続性を制度として後押しするものです。
現行制度の課題は「横の連携」はあっても「縦の連携」が弱いこと
資料では、現状の制度について次のように整理されています(学部・研究科の連続性に配慮した教育課程の促進に係る制度改正(大学設置基準等の一部改正)(案)-p.4)。
- 同一の学位レベル内の連携、つまり横の連携は、共同教育課程や研究科等連係課程等で進められている
- しかし、上位の学位レベルとの連続性を高める一般的な制度は十分ではない
そのため、学士課程から博士課程までを見通した教育課程を編成しようとしても、制度面で十分に支えられていないという課題がありました。
さらに、少子化の加速や国際競争力の高まりを背景に、人文・社会科学系も含めて、専門知を深掘りするだけでなく、数理・データサイエンス・AIを適切に活用し、総合知で社会課題を解決できる人材が求められている、という問題意識も示されています(学部・研究科の連続性に配慮した教育課程の促進に係る制度改正(大学設置基準等の一部改正)(案)-p.4)。
制度改正の柱は2つ
今回の改正案の柱は、次の2つです(学部・研究科の連続性に配慮した教育課程の促進に係る制度改正(大学設置基準等の一部改正)(案)-p.4)。
- 学部と研究科の連続性に配慮した教育課程を編成しやすくすること
- 連続課程について、標準修業年限等の特例を認める認定制度を創設すること
1. 連続性に配慮した教育課程を編成しやすくする
大学設置基準等における教育課程の編成方針として、各大学が必要と認める場合には、学部教育と大学院研究科教育の連続性に配慮した教育課程、いわゆる連続課程を編成することを明記します(学部・研究科の連続性に配慮した教育課程の促進に係る制度改正(大学設置基準等の一部改正)(案)-p.4)。
あわせて、いわゆる3つの方針、つまり
- 卒業・修了認定の方針(DP)
- 教育課程の編成・実施に関する方針(CP)
- 入学者受け入れに関する方針(AP)
について、連続課程を編成する学部と大学院を一つの単位として策定できるようにします(学部・研究科の連続性に配慮した教育課程の促進に係る制度改正(大学設置基準等の一部改正)(案)-p.5)。
専門職大学・専門職大学院についても、同様の取扱いとされています(学部・研究科の連続性に配慮した教育課程の促進に係る制度改正(大学設置基準等の一部改正)(案)-p.5)。
これは、各大学の実情に応じて、学位プログラム単位、学部単位、研究科単位など、これまで認められてきた策定単位の選択肢を広げるものと位置付けられています(学部・研究科の連続性に配慮した教育課程の促進に係る制度改正(大学設置基準等の一部改正)(案)-p.5)。
2. 特例認定制度を設ける
もう一つの柱が、連続課程特例認定制度です(2.連続課程特例認定制度の創設-p.6)。
ここでは、効果的な連続課程の編成に係る実証的な成果を創出し、将来の制度改善につなげるために、内部質保証体制が十分機能していることを前提に、標準修業年限等の特例を認める制度をつくるとしています(2.連続課程特例認定制度の創設-p.6)。
特例認定の要件としては、次のような点が挙げられています(2.連続課程特例認定制度の創設-p.6)。
- 連続課程の編成に係る実証的な成果の創出に資する効果的な取組を行うために特に必要があること
- 当該取組を行う大学であること
- 教育研究活動等について、自ら点検・評価・見直しを行う体制が整備されていること
- 教育研究活動等の状況を積極的に公表し、学生に適切な配慮を行うこと
なお、認定基準や運用の詳細は、今後の告示などで具体化される見込みです(2.連続課程特例認定制度の創設-p.6)。
また、他大学との間で連続課程を編成する場合には、大学等連携推進法人の社員、または一定の要件を満たす複数大学設置法人が設置する大学間で協議会を設け、連携推進方針等に沿って編成されるものに限るとされています(2.連続課程特例認定制度の創設-p.6)。
特例で何が可能になるのか
特例として認められる内容は、主に2つです(2.連続課程特例認定制度の創設-p.6)。
- 修士課程の標準修業年限を1年以上2年未満の期間とすること
- 大学院進学前に先取り履修した単位について、入学資格の有無に関わらず、在学期間短縮に反映できること
ただし、ここで強調されているのは、標準修業年限の短縮が目的ではないという点です(学部・研究科の連続性に配慮した教育課程の促進に係る制度改正(大学設置基準等の一部改正)(案)-p.4)。あくまで、現行の標準修業年限を前提としながら、各課程の教育を有機的につなぎ、その質と密度を高めることが目的です。
そのうえで、修士課程において
- 30単位以上の修得
- 必要な研究指導
など、現行の修了要件を満たすことを前提に、(4年+)1年以上2年未満の期間が修業年限として必要かつ十分であると国が確認できる場合に、例外的に大臣認定を行う仕組みが想定されています(学部・研究科の連続性に配慮した教育課程の促進に係る制度改正(大学設置基準等の一部改正)(案)-p.4)。
連続課程のイメージは「大学院を見据えた学部教育」
資料のイメージ図では、従来型のカリキュラムと、大学院修了を前提とした体系的なカリキュラムが対比されています(大学院修了を前提とした連続的な教育課程編成のイメージ-p.7)。
従来は、学部段階では大学院に進学しない学生も主に想定した教育課程が組まれがちです。一方、大学院修了を前提とする場合、学部の間から
- 課題発見能力
- 論理的思考力
- 研究の進め方の基礎
- ゼミや研究指導につながる素地
を育てる形に変わっていきます(大学院修了を前提とした連続的な教育課程編成のイメージ-p.7)。
つまり、学部で「基礎」、修士で「応用」という単純な分け方ではなく、学士1年次から博士後期課程までを見通して、段階的に能力を積み上げる発想です。
学生の進路選択や就職活動にも影響する
資料では、大学院進学を前提とした教育課程にシフトした場合、これまで就職活動に使われていた時間を学びに充てられる可能性があるとしています(大学院進学を前提とした教育課程における修業年限・在学期間について-p.9)。
また、修業年限や在学期間を短縮することは、単なる早期化ではなく、高度で集中的な学修を修めた人材として評価するという意味合いもあると説明されています(大学院進学を前提とした教育課程における修業年限・在学期間について-p.9)。
さらに、そうした人材が社会から評価されれば、学生が大学院進学を志す正の循環にもつながりうる、という見方も示されています(大学院進学を前提とした教育課程における修業年限・在学期間について-p.9)。
連続課程は、学部入学時点で固定されるとは限らない
資料では、いくつかのパターンも示されています(様々な教育課程編成の可能性-p.8)。
- 学部入学時点で、大学院進学を前提とする
- 学部の途中で、大学院進学コースに切り替わる
- 修士課程修了後に博士後期課程へ進む
- 途中で就職へ進む
このように、連続課程は一律の一本道ではなく、学生が途中で進路を選びながら、大学院進学につながる設計も想定されています(様々な教育課程編成の可能性-p.8)。
まとめ
文科省の今回の資料が示しているのは、学部と大学院を別物として切り分けるのではなく、一連の教育課程として設計し直すという考え方です(学部・研究科の連続性に配慮した教育課程の促進に係る制度改正(大学設置基準等の一部改正)(案)-p.4)。
そのために、
- 学部と研究科の連続性に配慮した教育課程の編成を促進し
- 3つの方針を一体で策定できるようにし
- 条件を満たす場合には修士課程の標準修業年限短縮も可能にする
という制度改正が構想されています(学部・研究科の連続性に配慮した教育課程の促進に係る制度改正(大学設置基準等の一部改正)(案)-p.5)。
ポイントは、修業年限を短くすることそのものではなく、学士課程から博士課程までを見通して、学びの質と密度を高めることです。大学にとっては教育課程の再設計が求められ、学生にとってはより濃密な学びと進路設計の選択肢が広がり、社会にとっては高度な専門性を持つ人材の育成につながる。今回の制度改正は、そうした方向性を後押しするものといえます。

