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我が国の研究大学を取り巻く現状について(基礎データ集)のまとめ

我が国の研究大学を取り巻く現状について(基礎データ集)のまとめ

はじめに

日本の研究大学をめぐる現状を見ると、論文数は伸びている一方で、研究成果の質、研究の厚み、国際性、資金力にはなお課題が残ることがわかります。文部科学省の基礎データ集では、論文指標、研究領域の構造、大学グループ別の研究力、教員給与や国際性、資金・基金・産学連携まで、研究大学を取り巻く状況が多面的に整理されています(我が国の研究大学を取り巻く現状について(基礎データ集)-p.1)。 本記事では、その内容をもとに、日本の研究大学がどこに強みを持ち、どこにボトルネックがあるのかを整理します。

日本の論文数は増えているが、注目度の高い論文では順位が低い

まず論文指標です。資料では、日本の論文数は2010年代半ばから増加傾向にあります。いっぽうで、注目度の高い論文を示す Top10%補正論文数 は、下げ止まりの兆しはあるものの、世界順位では依然として低い位置にあります(◆日本の論文数は2010年代半ばから増加傾向。Top10%補正論文数は下げ止まりの兆し。-p.2)。
※Top10%補正論文数は、被引用数が上位10%に入る論文数を、論文数との比較がしやすいよう補正した指標です。
分数カウント法による2019~2021年平均では、
  • 論文数:世界5位
  • Top10%補正論文数:世界13位
  • Top1%補正論文数:世界12位
となっています(論文数(分数)の世界ランク-p.3)。
つまり、日本は論文の「量」では上位にある一方で、被引用上位に入るような論文の比率では相対的に弱さが残る、という構図です。

研究領域の構造を見ると、強い領域に論文が集中している

次に、研究領域の構造です。サイエンスマップ2020に基づくSci-GEOチャートでは、国際的に注目を集めている919領域のうち、
  • スモールアイランド型が36%
  • コンチネント型が19%
を占めています(研究領域の特徴を分けるSci-GEOチャート-p.4)。
ただし、研究領域の中に含まれるコアペーパー数に注目すると、
  • コンチネント型に47%の論文が集中
  • スモールアイランド型は15%
にとどまります。
これは、領域数としては小規模な研究領域が多くても、実際の論文の厚みは大規模で継続性のある領域に集まりやすいことを示しています。
さらに、サイエンスマップ2004と2020を比較すると、日本では
  • コンチネント型が増加
  • スモールアイランド型が減少
しており、研究領域の大型化が進んでいることが読み取れます(◆サイエンスマップ2004と2020を比較すると、日本については、コンチネント型の増加、スモールアイ…-p.5)。

英国・ドイツは「上位に続く層」が厚いが、日本は層が薄い

大学グループ別の比較では、日本の課題がよりはっきりします。
※第1G〜第4Gは、大学の自然科学系論文シェアに基づくグループ分けで、上位大学群から下位大学群までの構造を示します。
英国やドイツは、最も規模の大きい第1Gに続いて、第2Gの大学が大きな論文数を持っています。特にドイツは、第2Gの大学だけで大学等部門の約7割の論文を産出しています(大学グループ-p.9)。
一方、日本は第1Gから第4Gまでの論文数規模が比較的近く、上位層に続く大学群の厚みが相対的に弱いと整理されています。そのため、上位大学だけでなく、その次の層をどう厚くするかが重要な論点になります。
資料でも、「少ない論文数で特定分野において強みを持つ大学は多数存在する」一方で、上位に続く層からの論文数は海外と比べて少ないと示されています(少ない論文数で特定分野において強みを持つ大学は多数存在する-p.7)。つまり、日本には強い大学はあるものの、それが研究大学全体の厚みとして十分に広がり切っていない、ということです。

日本の大学は、特定分野で強みを持つ大学が多い

ただし、日本の大学が一様に弱いわけではありません。自然科学系19分野で、自大学がリードする国際共著論文数の国内上位10位以内を見ると、第1Gや第2Gだけでなく、第3G・第4Gの大学にも強い大学が多くあります(国内大学で自大学がリードする国際共著論文数が上位10位以内に入る大学を自然科学系19分-p.10)。
たとえば、分野別には以下のような大学が挙がっています。
  • 化学:京都大学、東京大学、大阪大学、東北大学 など
  • 材料科学:東北大学、大阪大学、東京大学、京都大学 など
  • 計算機科学:東京大学、京都大学、大阪大学、東北大学、早稲田大学 など
  • 臨床医学:東京大学、京都大学、大阪大学、東北大学、東京医科歯科大学 など
  • 農業科学:東京大学、京都大学、九州大学、広島大学、北海道大学 など
さらに、より細かいサブジェクトカテゴリで見ると、中小規模大学でも国内第1位の大学が多数存在します。たとえば、帯広畜産大学、会津大学、鹿児島大学、自治医科大学、電気通信大学、東京農工大学、産業医科大学などが挙げられており、日本の大学には分野特化型の強みが確かにあることがわかります(より粒度の小さい分野分類であるサブジェクトカテゴリにおける自大学がリードする国際共著論文数で-p.11)。
この点は、日本の研究力を考えるうえで重要です。「大規模大学だけを見る」のではなく、中小規模大学にも特定領域の国際研究をリードする力があることを見落としてはいけません。

大学内部組織レベルでは、研究拠点が強い

大学内部組織レベルの分析でも示唆があります。Top10%補正論文割合は、第1G>第2G>第3Gの順になっていますが、第2Gの「研究拠点」は第1Gと同程度のQ値を持っています(大学内部組織分類別の研究活動の状況-p.8)。
また、国際共著論文割合は、第1G~第3Gのいずれでも「研究拠点」が最も高いとされています。
つまり、大学全体の規模だけでなく、研究拠点のような組織単位をどう強化するかが、研究成果の質を引き上げる鍵になっているといえます。

日本の研究大学は、量・質・厚み・国際性で英米に差がある

資料では、研究成果を比較する指標として、以下が示されています。
  • 論文数
  • FWCI
  • Top1%論文数
  • Top10%論文数
  • h5-index
  • 著者数
  • 国際共著論文数
  • 国際共著論文率
  • CNI
これらを総合すると、日本の研究大学は論文の量・質・厚み・国際性のいずれの面でも、英米の研究大学と差があると整理されています(研究成果の比較-p.12)。
たとえば、京都大学や東京大学は日本では上位ですが、ハーバード大学、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学、UCLなどと比べると、FWCIやTop10%論文率、国際共著の厚みで差があります。

外国人教員、留学生、博士課程支援にも差がある

研究力は論文だけでは決まりません。人材面の国際性も重要です。

海外出身教員の割合

QS World University Ranking 2025に基づく比較では、米英の主要大学は海外出身教員の割合が高い一方、日本の大学は低い状況です(出典:QS World University Ranking 2025から作成-p.13)。
たとえば、
  • 東京大学:8%
  • 京都大学:10%
  • 東北大学:10%
  • 慶應義塾大学:7%
に対して、
  • オックスフォード大学:44%
  • ケンブリッジ大学:52%
  • UCL:46%
  • シンガポール国立大学:65%
となっています。

大学院留学生比率

大学院生における留学生の割合も、日本は一定程度あるものの、英国やシンガポールと比べると低めです。東京大学は30%、京都大学は25%、東北大学は22%であるのに対し、ケンブリッジ大学は60%、UCLは62%、シンガポール国立大学は82%です(日本と海外の比較-p.27)。

博士課程支援

博士課程学生への経済的支援も課題です。資料では、博士課程学生一人あたりの受給額について、
  • 180万円以上:16.9%
  • 60~180万円:16.2%
  • 60万円未満:23.3%
  • 受給なし:37.9%
とされており、十分な支援を受けられていない学生が少なくありません(日本と海外の比較-p.27)。研究人材を確保するうえでは、ここが研究力の土台になります。

教員給与や学長報酬でも、英米との差がある

研究大学の競争力には、処遇も直結します。資料では、大学教授の平均給与を英米と比較しており、日本の国立大学等の平均は英米の研究大学より低い状況です(Professor-p.14)。
また、教授の給与の変化を見ると、米国大学では上昇傾向がある一方で、日本の大学はほぼ変わっていません。そのため、2021年以降の米国の急激なインフレと円安の影響もあり、差はさらに広がっています(教授の給与の変化-p.15)。
さらに、学長等の報酬でも、米国は英国・日本より非常に高額です。研究大学を支える経営人材の待遇にも、国際的な差があることがわかります(諸外国の学長の平均給与-p.16)。

研究資金は増えているが、英米の伸びが大きい

資金面では、日本のRU11の多くがここ数十年で資金規模を増やしています。しかし、英米の研究大学はそれ以上に資金を大きく伸ばしており、差は拡大しています(研究大学の資金規模と成長の比較-p.18)。
資料では、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学、スタンフォード大学、ハーバード大学、UCL、UCバークレー、UCサンディエゴなどが、2005年から2023年にかけて大きく収入を増やしたことが示されています(授業料等収入,-p.19 / 授業料等収-p.20 / 授業料等収-p.21)。
増加の主な要因としては、
  • 授業料等収入
  • 研究費収入
  • 寄附金・基金等収入
  • 資産運用収入
  • 出版業収入
などが挙げられています。
一方、日本の大学も伸びてはいるものの、成長の勢いは英米に及びません。

基金と寄附の差は大きい

基金については、日米英で大きな差があります。ハーバード大学、イェール大学、スタンフォード大学、プリンストン大学などの基金残高は桁違いで、日本の大学との差は明確です(■大学基金の比較-p.22 / 2005年-p.23)。
寄附受入額についても、日本では増加傾向にあるものの、諸外国との差は依然として大きいと整理されています。
基金を充実させるには、寄附の受入れを増やし、それを継続的な運用につなげていく必要があります。研究力強化を考えるうえで、基金は単なる財務指標ではなく、長期的な研究投資の源泉です。

産学連携は伸びているが、収入と間接経費率に差がある

産学連携も、日本では拡大しています。大学等と民間企業との共同研究実施件数、研究費受入額、ライセンス収入はいずれも増加傾向です(【我が国の大学等※におけるライセンス等推移】-p.24 / (出典)各社ホームページをもとに作成(2025年1月)-p.25)。
ただし、米国との比較では、ライセンス収入に大きな差があります。また、間接経費率も諸外国と比べて低い傾向にあります。
たとえば、資料では日本の大学の例として、東京大学、京都大学、大阪大学などの民間研究費・ライセンス収入が示されていますが、スタンフォード大学など米国の大学と比べると規模が異なります(【我が国の大学等※におけるライセンス等推移】-p.24)。
産学連携は件数だけでなく、収入の大きさ、制度設計、間接経費の確保まで見て考える必要があります。

大学ランキングでは、日本の上位校は一定数あるが、評価軸の違いに注意が必要

THE World University Rankings 2025やQS World University Rankings 2025でも、日本の大学は一定の存在感を持っています。ただし、英米やシンガポール、中国のトップ大学と比較すると、上位校数は限られます(QSランキング-p.17)。
THE 2025では、東京大学は28位、京都大学は55位です。QS 2025でも東京大学は32位、京都大学は50位で、東京工業大学、大阪大学なども上位に入っています。もっとも、THEとQSでは評価指標が異なります。順位だけでなく、何を重視したランキングなのかを確認しながら見ることが大切です。

まとめ

この資料から見えるのは、日本の研究大学は論文数は伸びているが、質・厚み・国際性・資金力ではなお課題が残るという現状です。
一方で、日本には、
  • 分野別に強い大学が多い
  • 中小規模大学にも国際共著をリードする力がある
  • 研究拠点には高い成果がある
という強みもあります。
今後の焦点は、単にトップ大学を強くすることではなく、上位に続く層を厚くし、特定分野の強みを広げ、国際性と資金基盤を底上げすることにあります。
研究大学の競争力は、論文の数だけではなく、人材、資金、組織、国際ネットワークを含めた総合力で決まる。この資料は、そのことを改めて示しています。
参考資料:我が国の研究大学を取り巻く現状について(基礎データ集)

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