はじめに
文部科学省は、令和8年熊本地震で被災した公立学校施設の災害復旧について、既存の調査要領や事務手続を前提とした特例を通知しました。特別な事情がある場合の申請分割、建築構造専門家による被害判定、仮設教室や仮設調理室の整備、復旧図・被害写真の簡略化などを認める内容です。(8施参事第24号-p.1)
通知日は令和8年9月7日。対象地域は、山口、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島の9県です。(令和8年熊本地震による災害に係る文部科学省所管公立学校施設災害復旧費-p.2)
なお、以下は通知本文に基づく整理です。申請期限、補助率、専門家の要件、具体的な報告様式などは通知に記載されていないため、実際の手続きでは所管の教育委員会などへの確認が必要です。
今回の通知で示された主な特例
今回の通知では、主に次の取扱いが示されています。
- 特別な事情がある場合、復旧申請を原則3回まで分割できる
- 建物の被害区分について、建築構造専門家の鑑定を利用できる
- 仮教室だけでなく、体育・集会、給食、宿泊などの仮施設も調査対象となり得る
- やむを得ない場合は、学校敷地外や廃校、空き教室の活用も対象となる
- 外部委託した実施設計費や工事監理費を、現地適正価格で算定できる場合がある
- 被災状況に応じ、復旧図や被害写真を必要最小限にできる
ただし、今回の通知は災害復旧制度全体を変更するものではありません。通知に定めのない事項は、通常の「文部科学省所管公立学校施設災害復旧費調査要領」や関連する事務手続によります。(令和8年熊本地震による災害に係る文部科学省所管公立学校施設災害復旧費-p.2)
申請は特別な事情があれば原則3回まで分割可能
学校教育活動を早期に再開するため、緊急かつ迅速に復旧しなければならない部分があるなど、申請を分割せざるを得ない特別な事情がある場合は、原則として3回に分けて申請できます。(令和8年熊本地震による災害に係る文部科学省所管公立学校施設災害復旧費-p.2)
例えば、緊急性の高い部分を先に復旧し、その後に本格的な補修や復旧を申請する運用が考えられます。
ただし、通知本文では、次の点までは示されていません。
- 各回の申請期限
- どの単位で分割するか
- 申請回ごとの工事範囲
- 3回を超える場合の扱い
したがって、分割申請を行う場合は、事前に所管の教育委員会や文部科学省へ確認する必要があります。
事業内容を変更する場合は文科省との協議が必要
現地調査後に想定していなかった被害などが判明し、やむを得ず事業内容を変更する場合は、文部科学省との協議が必要です。(5.第9第3項「単価」(2)の取扱いについて、現地の被災状況に鑑み、これによ-p.3)
また、当初決定した復旧工事費に対する増減率が30%を超える場合は、事前に関係財務局などへ報告します。説明を求められた場合には、変更内容などを説明する必要があります。
変更の可能性がある場合は、少なくとも次の資料を整理しておくとよいでしょう。
- 当初の復旧内容
- 変更後の復旧内容
- 変更理由
- 当初決定額と変更後の工事費
- 被害写真や調査記録
- 数量・工法の変更内容
設計費・工事監理費を現地適正価格で算定できる場合も
大規模な建物補修や法面崩落などの土地復旧で、外部委託が避けられない場合は、実施設計や設計に関する調査の経費を現地適正価格で算定できます。(5.第9第3項「単価」(2)の取扱いについて、現地の被災状況に鑑み、これによ-p.3)
建物の新築・大規模補修、土地復旧の工事監理を外部委託する場合も、工事監理に要する経費を現地適正価格で算定できます。
これらの経費は、復旧工事費に含める扱いです。
また、通常の歩掛りでは算定が難しい場合には、現地適正単価を使用できる場合があります。ただし、通知本文では、見積書の数や具体的な算定方法までは示されていません。(5.第9第3項「単価」(2)の取扱いについて、現地の被災状況に鑑み、これによ-p.3)
仮設教室だけでなく、体育・給食・宿泊施設も調査対象に
本格復旧工事の完了まで長期間を要する見込みで、授業の中断や二部授業を避ける必要がある場合、次の施設や工事が調査対象となり得ます。(8.上記7の具体的な取扱いについて-p.4)
- 仮教室
- 仮間仕切壁
- 仮便所
- 仮職員室などの管理関係室
- 仮体育・集会室
- 仮調理関係諸室
- 仮教育研修宿泊関係諸室
いずれも、必要最小限度の規模であることが基本です。被災前と同じ規模の施設を無条件に整備できる制度ではありません。
学校敷地外や既存施設の活用
やむを得ない事情がある場合は、学校敷地外に設ける仮教室、仮便所、仮職員室なども調査対象となり得ます。(8.上記7の具体的な取扱いについて-p.4)
また、廃校となった学校施設や空き教室を応急仮設校舎として使う場合は、必要な臨時改修や附帯工事も調査対象となります。この場合、通知上は「残存建物」を「既存建物」と読み替えます。(8.上記7の具体的な取扱いについて-p.4)
借家や交通事情などを考慮し、やむを得ない場合には、応援教員などの仮宿泊室を加算することもできます。(応急仮設校舎調査対象面積算出表-p.12)
市町村の区域外に公の施設を設ける場合には、地方自治法第244条の3に基づき、関係する地方公共団体との協議が必要となる場合があります。(8.上記7の具体的な取扱いについて-p.4)
体育・給食・宿泊・排水機能の確保
仮体育・集会室
次の条件を満たす場合、仮体育・集会室が調査対象となり得ます。
- 学校施設が被災している
- 本格復旧に相当程度の期間を要する
- 被災した複数の学校の児童生徒などを受け入れられる近隣の代替施設がない
- 代替施設がないことで教育上の支障が生じる
対象面積は、必要最小限度とされます。(8.上記7の具体的な取扱いについて-p.4)
仮調理関係諸室
学校単独調理場または学校共同調理場が被災し、本格復旧に相当程度の期間を要する場合で、代替手段による給食提供が物理的に困難なときは、仮調理関係諸室が調査対象となり得ます。(8.上記7の具体的な取扱いについて-p.4)
仮教育研修宿泊関係諸室
教育研修宿泊関係諸室が被災し、本格復旧に相当程度の期間を要するうえ、近隣に代替施設を確保できず、教育上の支障がある場合は、仮教育研修宿泊関係諸室が調査対象となり得ます。(8.上記7の具体的な取扱いについて-p.4)
仮設浄化槽
下水道施設に甚大な被害が生じ、本格復旧に相当程度の期間を要するうえ、給食提供や教育活動に支障が生じる場合には、排水機能を確保するため、必要最小限の浄化槽を一時的に設置する工事などが調査対象となり得ます。(8.上記7の具体的な取扱いについて-p.4)
仮設校舎の面積は必要最小限に算定
仮設校舎の対象面積は、必要とされる面積と実際の建設面積を比較し、原則として小さい方を基に算定します。(応急仮設校舎調査対象面積算出表-p.12)
| 区分 | 主な算定方法 |
| 普通教室 | 限度教室数×83平方メートル |
| 管理関係室 | 被災面積から既存施設内の転用可能面積を控除 |
| 応援教員などの仮宿泊室 | 教職員数×20平方メートル |
| 仮便所 | 必要な便器数・建設面積などを踏まえて算定 |
| 仮体育・集会室 | 必要な競技内容などに基づく面積と建設面積を比較 |
| 仮調理関係諸室 | 必要な調理内容などに基づく面積と建設面積を比較 |
| 仮教育研修宿泊関係諸室 | 必要面積と建設面積を比較 |
| 共有面積 | 仮教室などの面積合計の44%を上限として算定 |
普通教室は、被災時の実学級数、残存普通教室数、既存校舎内で転用できる教室数などを踏まえて限度教室数を算定します。(応急仮設校舎調査対象面積算出表-p.12)
なお、仮体育・集会室や仮調理関係諸室が独立棟となる場合は、共有面積の扱いが異なります。(応急仮設校舎調査対象面積算出表-p.12)
建物の全壊・半壊は構造別に判定
今回の通知では、建物の被害区分を判定する要領が示されています。建築構造専門家の鑑定による判定も可能です。(地震災害における建物の被害区分判定要領-p.6)
判定単位は建物全体ではなく、構造的に一体となっている部分ごとです。(地震災害における建物の被害区分判定要領-p.6)
全壊の判定
鉄筋コンクリート造・鉄骨造では、次のいずれかに該当する場合、全壊とします。(別添1-1-p.7)
- 構造上主要な柱や耐力壁が崩壊し、その部分の窓などの開口部が高さの半分以上ふさがっている
- 構造上主要な柱、耐力壁、梁が著しく崩壊し、建物内に入ることが危険である
鉄筋コンクリート造の主な半壊判定基準
- 基礎の最大沈下量が1.0メートル以上
※杭基礎は0.2メートル以上 - 基礎の不同沈下による傾斜角が6/100以上
※杭基礎は3/100以上 - 最も被害が大きい階で、損傷度Ⅴの柱・耐力壁が調査可能部材の35%以上(別添1-1-p.7)
損傷度Ⅴの基準は次のとおりです。
| 部材 | 基準 |
| 柱の水平変形角 | 1/100以上 |
| 柱の軸方向変形 | 0.5/100以上 |
| 耐力壁の水平変形角 | 0.5/100以上 |
基準値を下回る場合でも、幅5ミリメートル程度以上の大きなひび割れがある場合は、損傷度Ⅴとして扱えることがあります。(別添1-1-p.7)
鉄骨造の主な半壊判定基準
- 基礎の最大沈下量が1.0メートル以上
※杭基礎は0.2メートル以上 - 基礎の不同沈下による傾斜角が1/20以上
※杭基礎は1/40以上 - 柱の傾斜角が1/20以上(別添1-1-p.7)
木造・屋内運動場
木造建物は、日本建築防災協会の木造建築物に関する被災度区分判定基準などを用いることができます。(地震災害における建物の被害区分判定要領-p.6)
大規模な鉄骨造の屋内運動場などは、同協会の鉄骨造建築物に関する基準を準用します。残余耐震性能や復旧後耐震性能は、文部科学省の「屋内運動場等の耐震性能診断基準」によって算定します。(別添1-5-p.11)
なお、専門家の資格要件や鑑定書類の詳細は、今回の通知本文では確認できません。
復旧コストと技術的な妥当性も判定材料
補修・補強による復旧を検討する際、復旧コストが所定の基準額以上となる場合は、調査要領上、半壊とみなす取扱いがあります。(別添1-2-p.8)
ただし、コストだけで判断するのではなく、補修・補強が技術的に適切かどうかも検討します。
構造部分の基準額
基準額=建物延べ面積×新築工事単価×1/2×β
βは、経過年数による減価償却の低減率です。(別添1-2-p.8)
- 鉄筋コンクリート造:
β=1-0.7×経過年数/47
ただし、βは0.3以上 - 鉄骨造:
β=1-0.7×経過年数/34
ただし、βは0.3以上
基礎と上部構造の双方を復旧する場合は、それぞれの復旧コストを合算して基準額と比較します。(別添1-2-p.8)
建物全体の基準額
仕上げや設備を含む建物全体の復旧コストについては、次の式を使います。
基準額=建物延べ面積×新築工事単価×1/2×(1+β)
補修・補強が技術的に不適当と判断される場合には、復旧コストだけでなく、技術的判断に基づいて半壊とすることがあります。(別添1-2-p.8)
復旧図や被害写真は必要最小限に
被災状況を踏まえ、復旧図の一部を簡略化できます。
| 対象 | 取扱い |
| 建物補修 | 学校施設台帳の平面図などに数量・工法を記載し、代表的な断面図・立面図を添付 |
| 建物以外の工作物 | 配置図などに数量・工法を記載し、代表的な断面図・立面図を添付 |
| 土地 | 配置図などに数量・工法を記載し、代表的な断面図・横断図を添付 |
| 設備 | 図面の添付を省略可能 |
被害写真は、現地調査か机上調査かによって扱いが異なります。
- 現地調査を行う場合:被害の概略が確認できる写真
- 机上調査の場合:積算内訳書に記載された被害を確認できる必要最小限の写真
- 設備の場合:備品台帳との照合で被害を確認できる写真
台帳にない備品であっても、被災直近に取得したもので、購入伝票や領収書などから学校所有であることが明らかな場合は、調査対象とできることがあります。(「国庫負担(補助)事業計画書」について、下記によることができるものとする。-p.5)
災害の証明資料には、震度などを確認できる気象庁ウェブサイトのデータも活用できます。(「国庫負担(補助)事業計画書」について、下記によることができるものとする。-p.5)
実務上の確認ポイント
自治体や学校施設担当者は、次の点を確認しておくとよいでしょう。
- 対象地域・対象災害に該当するか
- 申請を分割する特別な事情があるか
- 緊急復旧部分と本格復旧部分を整理できているか
- 仮設施設の必要性と規模を説明できるか
- 残存施設や転用可能な教室を把握しているか
- 被害写真と積算内訳書が対応しているか
- 学校施設台帳、備品台帳、公有財産台帳を確認しているか
- 台帳にない備品の購入伝票や領収書があるか
- 事業変更について文部科学省との協議が必要か
- 復旧工事費の増減率が30%を超える可能性があるか
- 学校区域外に施設を設ける場合、自治体間協議が必要か
まとめ
今回の通知は、令和8年熊本地震で被災した公立学校施設について、教育活動を早期に再開できるよう、既存の災害復旧制度の一部を柔軟に扱うものです。
主なポイントは次のとおりです。
- 特別な事情がある場合、復旧申請を原則3回まで分割できる
- 被害判定に建築構造専門家の鑑定を利用できる
- 仮教室だけでなく、体育・集会、給食、宿泊、排水機能の確保も調査対象となり得る
- 外部委託した設計費・工事監理費を現地適正価格で算定できる場合がある
- 復旧図や被害写真を、被災状況に応じて必要最小限にできる
一方で、仮設施設の整備や費用算定には、「必要最小限度」「やむを得ない事情」「教育上の支障」などの条件があります。また、通知に記載されていない事項は、通常の調査要領や事務手続によります。
申請期限、具体的な単価、補助率、報告様式、専門家の要件などは、通知本文だけでは確認できません。実際の復旧事業では、所管の教育委員会や文部科学省に確認しながら手続きを進める必要があります。

